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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第59章      

 なるほど……と納得する柿田トレーナーの横で、ジュリアンはう~んと呻りながら、フェンスへと凭れ掛かる。

「ま……。思い込みが激しいのは、ある時は弱みにもなるけれど……ね」

 ぽつりとそう溢したジュリアンの言葉は、あまりに小さすぎで誰の鼓膜も震わせることはなかった。





 ヴィヴィの3回転アクセル以外は、順調に調整が進んでいた9月中旬。

「双子のフォトブックを発売する契約と、双子の使用曲を収録したCDを発売する契約を、それぞれ結ぶ予定にしてます」

 ミーティングルームでそう口を開いた牧野マネージャーに、コーチ陣が驚く。

「あら。まるで一流スケーターみたいね?」とジュリアン。

「えっと……。双子は五輪金メダリスト 兼 世界チャンピョンですけど……」

とサブコーチが恐る恐るフォローを入れる。

「クリスとヴィヴィはどう? 契約してもいいかな?」

 当人に確認を求めた牧野に対し、

「誰が、購入するのか、知らないけど、任せます……」とクリス。

「よく分かんないけど、練習の邪魔にならないなら、契約してください」とヴィヴィ。

「あんた達……。やる気ないわね?」

 ジュリアンが呆れたようにそう言って、双子を見比べる。

「もう、勉強とスケートと習い事で、いっぱいいっぱいで、他の事考えてる余裕ない、デス……」

 ヴィヴィがそう言って頭を抱えるのを、そばで『情熱大陸』のスタッフがカメラで押さえている。

(こんなとこ撮って……放送しないでよ……)

「フォトブックは今までの試合で撮りためた写真と、今シーズン、カメラマンが練習風景や試合を撮影した物を使いますし、お互い1時間ずつインタビューに付き合ってもらうかな。CDに関しては、ジャケットの撮影はサブリンクでする予定だし、後はコメントを一言ずつ書いてもらうかな」

 牧野が双子の拘束時間をざっと説明してくれる。

「それくらいなら……ね?」

とクリスが隣のヴィヴィに聞けば、ヴィヴィは「うん」と頷いて返す。

「じゃあ、決まりですね。契約を詰めて、最終的にジュリアンコーチにご説明します」

 牧野マネージャーがそう言って、開いていたファイルを閉じる。

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