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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第59章
「了解。任せたわ」
話がひと段落した中、柿田トレーナーが「そう言えば、知ってます?」と口を開く。
「今、『サロメ』を色んなオケやオペラでやるのが流行ってて、満員御礼、売切続出状態なんですって」
「ヴィヴィの先シーズンのSP、AUN J クラシックオーケストラも、公演回数がものすごく増えたらしいよ」
「へえ、経済効果に貢献してるって訳ね?」
コーチ陣がそう面白そうに話しているのを、耳にした双子は、
「オリンピックミクス……?」
「ヴィヴィミクス……?」
と首を傾げあったのだった。
9月後半。
双子は予備校の基礎力の模試を受け、その結果を受けてさらに勉強に励んでいた。
(ヴィヴィ、基礎はあるみたい……。う~ん、応用力……)
ヴィヴィは模試の結果を睨み付けていたが、その手から結果表を取り上げたクリスに、
「大丈夫。想定内の結果だから。スケジュールは、今迄通りでいける」
と力強く言われ、ヴィヴィは『教育兄』を信じて着いて行こうと、さらに帯を締め直した。
「クリス様、ヴィクトリア様。ご主人様がお呼びです」
双子をそう言って呼びに来た朝比奈は、階下のライブラリーへと案内する。大きな扉を開けて入るよう促された双子は、同時に「「あ……っ!」」と声を上げた。
視線の先、大画面の液晶テレビには、なんと匠海が映し出されていた。
「お、来たね、オチビちゃん達。今日は匠海の入学式だから、テレビ電話を繋いだんだよ」
そう説明しながら双子を手招きする父グレコリーの頬は、最愛の息子の晴れ姿に緩みきっている。
「兄さん……。ついに、留学開始か……。おめでとう、頑張ってね」
テレビに近寄ってそうお祝いの言葉を贈るクリスに対し、ヴィヴィは戸口から一歩も動かなかった。
「ほら、ヴィヴィもこっちいらっしゃい」
ジュリアンがそうヴィヴィを促すが、ヴィヴィは傍にいた朝比奈の長身の背にぱっと隠れると、片目だけその背から出す。
「何やってるの? ヴィヴィったら」
「………………」
そう呆れた声を返すジュリアンにも、ヴィヴィは沈黙を貫く。
画面に映った匠海は、そのジュリアンの声だけを聞き、苦笑していた。