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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第59章
その匠海は、黒スーツに白いシャツと白い蝶ネクタイ、黒いガウンを羽織るという、オックスフォード大学の正装に身を包んでいた。
「匠海、角帽かぶって見せておくれ?」
父がそう匠海にお願いすると、匠海は「えぇ……」と面倒くさそうな声を上げる。
「頼むよぉ……本当はダッドだって、入学式に出席したかったのに……。お前が『来なくていい』なんて言うから!」
そう不服そうに言い募る父に、匠海は「しょうがないなぁ」と呟くと、頭の上に黒い制帽を載せた。その瞬間、
「ジュリアン、写真撮って! 写真撮りまくってっ!!」
父がそう叫んでジュリアンを促す。母はいつの間にやら手にしていた一眼レフで、パシャパシャと写真を撮りまくっている。
「ダッド、マム……。画面の写真を、撮らなくても……。これ録画、してるんでしょ……?」
傍にいるクリスがそう冷静に突っ込むが、
「クリス! これは気持ちの問題なんだっ! 愛しい愛息子の入学式だぞ? 撮らいでかっ!!」
と父に叫ばれ、クリスは両手を上げで降参のポーズをとる。
一方のヴィヴィはと言うと、何故か少しずつ前進していく朝比奈の陰に、隠れて付いて行きながら、
(ふん。似合ってるじゃん……。ま、☆新生ヴィヴィ☆には、関係ないけど?)
そう可愛げの無い事を心の中で呟きながら、画面の中の匠海をちらちらと見つめる。
「今、あちらは、朝の8時ですね?」
盾にされた朝比奈が、背中に隠れているヴィヴィにそう尋ねてくる。時差の関係で日本は16時なので、匠海はこれから入学式の式典に向かうところなのだろう。
「そ……。ヴィヴィには関係ないけど……」
そうぼそりと呟いたヴィヴィに、朝比奈が苦笑する。
「じゃあ、そろそろ行かないと。ダッド、マム、クリス、& 朝比奈の後ろのヴィヴィ、またね」
腕時計に視線を落とした画面の中の匠海が、そう言ってテレビ電話を終わりにしようとする。
その途端、テレビ画面まで近づいていた朝比奈が、ぱっとヴィヴィの前から退いた。
「えっ!? ちょ……っ 朝比奈っ」
盾を失って焦ったヴィヴィが、朝比奈を驚いた表情で呼び戻す。一方の朝比奈は微笑みながら、クリスの傍へと歩いて行ってしまった。