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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第59章
バレエ『牧神の午後』を模し、首や手首のぎくしゃくとした動きで平面的に見せてはいるが、そこにモダンバレエのレッスンで培った、伸びやかさ、力強さが加味され、クリスにしか表現できない世界が出来上がっていた。
さすがに牛柄の前身タイツは着なかったが、胸から下を半獣のように表現した、体にフィットした白黒のウェアに身を包んだクリスの演技は、ヴィヴィには古代フレスコ画の如き美しさとして映った。
一方のヴィヴィはと言うと、FPで3回転アクセル2本を入れることに決定し、前向きに挑んだ。
一本目の単独の3回転アクセルは無事着氷。2本目の3回転アクセルと3回転ループのコンビネーションは、アクセルが両足着氷で体勢を崩しながらも、なんとか続けてループも飛び……。しかし着氷後の流れが止まるという結果で、終わってしまった。
(ま……、ジャンナの振り付けは物凄く高く評価されたし、スピンやステップのレベルの取りこぼしもほぼ無かったし……想定の範囲内……?)
ヴィヴィはそう冷静に評価していたのだが、世間はそうは許してくれなかったようだ。
『やはり、篠宮選手、3回転アクセル不調!』
『伝家の宝刀・アクセルは両刃の剣!?』
と翌日からマスコミでは取り上げられていた。
正直これにはヴィヴィも困り果てて、周りの期待に応えられていない自分が不甲斐なくて、落ち込んだのだが、
「有名税っていうの? こういうのは一流選手なら誰でも通る道よ。まあ、叩かれてる訳ではないしね」
とジュリアンのフォローもあり、何とか気持ちを立て直した。
そして、ジャパンオープンの翌週に受けた、予備校の模擬試験・全国統一高校生テストでは、クリスの想定よりもヴィヴィは順位が高かった。
ヴィヴィは、こういうことからも『努力はきっと報われる』と力を貰ったりもした。