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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第59章
そう尋ねながらヴィヴィを上から覗き込んできた人物に、ヴィヴィは一瞬固まった後、その大きな瞳を見開く。
ヴィヴィからしたら上下反対向きに見える、その人は、
「お、お兄ちゃんっ!?」
「兄さんっ!?」
ヴィヴィとクリスが同時に絶叫する。
「二人とも、元気そうだな」
そう言って面白そうに笑った匠海は、ずっと背凭れ越しに自分を呆けたように見上げているヴィヴィの頭を、こつりと拳で叩いた。
「ヴィヴィ……、あほの子、みたいだから、口、閉じなさい」
匠海はそう言って苦笑すると、ソファーから立ち上がって飛びついてきた母ジュリアンを、その胸で受け止める。
「た~く~み~っ!! よく来たわね!」
「うん。急に午後の講義が休講になるって、午前中に耳にしてね。午前中の講義終えて、ユーロスター(高速鉄道)に飛び乗ってきた」
そう言ってジュリアンを抱きしめた匠海に、母は、
「あ、でも、フランス杯のチケット、よく取れたわね?」
と不思議そうに尋ねる。
「はは。もしかしたら観戦は無理かと思ったんだけど、当日券、ぎりぎりセーフだった」
匠海はそう言って母の抱擁を解くと、クリスに視線を移す。
「よ。SPの4回転、痺れたぞ?」
「兄さんっ! 来るなら、くるって、教えてくれれば、よかったのに」
クリスがいつもより興奮したように、そう言い募る。
「あはは。だって本当に急だったんだよ。明日のFPだけしか見れないんだったら、来るつもり無かったからな」
「ユーロスター……、乗ったことないけど、そんなに早く、着くの……?」
匠海にがしがし頭を撫でられまくるクリスが、不思議そうに尋ねる。
「ああ、ロンドンからパリまで、海中トンネルを通って2時間半。まあ、出入国手続きがあるから、本当はもう少しかかるけど」
「へえ……。でも、会えて、嬉しいよ。来てくれて、ありがとう……」
素直にそう喜ぶクリスを、匠海が、
「やっぱり、可愛いなぁ、クリスは」
と感激したように抱きすくめる。それに関しては、クリスは少し嫌そうに顔をしかめていた。
「それに引き替え……、ヴィヴィは、まだ怒ってんのか?」
呆れた様に匠海が視線を向ける先、ヴィヴィはソファーの近くにある大きな観葉植物の影に隠れ、兄達を覗っていた。