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第60章 　 　　　 　　　

『最後はまるで周りに愛を振りまくように、胸にあてた両手を広げてのフィニッシュ。篠宮選手、満面の笑みは出ていませんが、自分を納得させるように、うんうんと大きく頷いています』

「いやぁ……、充分、素晴らしかったですよ？　よく纏めてきました」

『たぶん本人はパーフェクトとは思ってないでしょうが、浅田さん。篠宮選手は攻撃的に攻めてきましたね？』

「本当ですね。フランスに入ってからもアクセルの調子が安定しなくて、苦しんでいるようでしたが。彼女はＦＰにアクセル２回入れなくても、トップ独走状態で戦えるだけの技術を、先シーズン、シニアに上がってから培ってきましたからね」

『まさに頼もしい、日本女子のエース！　まだ若干１６歳の、女子高生なんですけどね？』

「リンクを降りるとほんと、普通の――どちらかと言えば幼い感じの少女なんですが。いやぁ、氷の上に立つと、別人ですね～」

『末恐ろしさを感じさせた篠宮選手。リンクサイドに戻り、ほっとした表情でコーチとクリス選手と抱き合います』

「本当に緊張しているようだったのに、本番でよく頑張りました」

『スロー映像です。浅田さん、気になるところはありますか？』

「そうですね……冒頭のトリプルアクセルの着氷も完璧ですし、ルッツの踏切もちゃんと左外側のエッジに乗っています。特に気になる点はありませんでしたが、冒頭から前半にかけて、やはり緊張の為か、昨年に比べ硬さがあるような気がしました。まあ、今日は彼女にとってグランプリの初戦でしたし、メンタルが安定すれば今後も問題ないでしょう」

『なるほど。篠宮選手もじっと、スロー映像を食い入るように見つめています。会場からは早く点数を出せといったような手拍子が起きていますね』

「ほんとですね」

『得点出ました。ＦＰも１位！　篠宮選手、ＳＰもＦＰも１位の完全優勝です！』

「素晴らしいです。男女合わせて日本人選手が１位！　この双子、一体どこまで進化するんでしょうね……」

『まさに日本フィギュア界の黄金期を築き続けている、篠宮兄妹です！　次戦は１１月中旬のＮＨＫ杯。こちらではＦＰで２回の３回転アクセル、期待したいですね？』

「はい。本人もやる気でしょうし、大いに期待できると思います」