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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第11章
『Victoria Shinomiya , From JAPAN』
トルコ語と英語のアナウンスで己の名が呼ばれるのを聞きながら、ヴィヴィはジュリアンとアイコンタクトを取る。
「Smile ヴィヴィ!」
母はフェンスの傍で娘を送り出す際、常に同じセリフを口にする。
本当はもっと言いたいことや注意事項もあるのだろうが、口にしたことはなかった。
にっこりと笑ったヴィヴィは、両手をフェンスに乗せたまま軽く屈伸し、リンクへと飛び出して行く。
本日から開催されているグランプリ ジュニア トルコ大会、女子SP。
グランプリシリーズといっても、ジュニア大会なので観客はまばら。
それでも3回転アクセルを飛ぶ事で徐々に有名になりつつあるヴィヴィには、期待の表れか、大きな声援が送られた。
観客に両手を上げて答えると充分に時間を取って肩の力を抜き、ジャンプ軸を確認する。
そうして、リンク中央で構えた冒頭のポーズ。
一瞬の静寂ののち、ドンと衝撃の来る音の塊が鼓膜を震わせた時、ヴィヴィの頭の中は驚くほどクリアだった。
緊張 も グランプリシリーズの連覇 というプレッシャーもない。
ただ、今迄になく真剣に演技と向き合い取り組んだ。
その自分の演技を見せたい、という気持ちだけだった。
そしてその気持ちのまま、3回転アクセルを踏切った。
「Congratulations クリス、ヴィヴィ!!」
クロージングバンケット。
主催者の乾杯の挨拶もそこそこに、双子の周りにはたくさんの選手や関係者が、お祝いの言葉を掛けに来てくれた。
「まったく双子で男子も女子もまた制覇しちゃうなんて。お前らなんか魔術でも使ってない?」
同大会にペアで出場していた成田・下城ペアは冷やかしながら、バンケット用に着飾った双子を見比べる。
そういう彼らもジュニアでは最後のグランプリシリーズへの参戦で、見事銅メダルを獲得した。
「そんなわけないでしょ、達樹君。私達が毎日リンクで罵倒されてるのは、達樹君達が一番良く知ってるじゃない。ねえ、舞ちゃん?」
大人っぽい黒ドレスに身を包んだ下城舞に、そう問えば。
「確かに~。今シーズンは毎日練習終了後は、フラフラだったよね」
リンク名との舞がそう同意した時、母ジュリアンに呼ばれた。