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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第11章            

 母の傍に寄り「何でしょう?」と問えば「ジャンナから電話よ」と携帯電話を渡された。

 ジャンナとは、先シーズンから世話になっている振付師のロシア女性で、

 今シーズンもFSは彼女に依頼していた。

「Hello?」

 挨拶しながら電話に出た途端、回線の向こうのジャンナは もの凄い勢いで捲し立ててくる。

「ヴィヴィ? 今週末、日本に行くからスケジュール空けておくのよ! FSの振り付けし直すわよ!!」

「ええ――っ!?」

 既にシーズンインしており。

 更には本日、彼女の振付けたFSを初披露したばかりだというのに、

 「今から振付し直す」と言われれば、驚かぬ筈も無く。

「あんなSP見せつけられて、私のプライドが許しません! もっと素晴らしい『シャコンヌ』を創り上げるわっ!! じゃあね! あ、それと――ゴールドメダルおめでとう!」

 そう言いたい事だけ発すると、通話は一方的に切られた。

「なんですって?」

「え、ええと。今週末 来日して、FS振付け直すそうです」

「あ、そ」

「「あ、そ」って……? 驚かないのですか?」

 母の簡素な反応に、金の頭が倒れる。

「負けず嫌いのジャンナなら、今のヴィヴィのSPを見せたら悔しがると思ったのよね。ふっふっふっ、思った通り」

 ジャンナは元ジュリアンの振付師でもあるので、彼女の負けず嫌いな性格を把握していたのだろう。

 悪代官の様に笑む母に、ヴィヴィは舌を巻くしかなかった。





 その週末。

 日本に帰国した双子の前に、ロシア人振付師・ジャンナは本当に現れた。

「Hi! クリス、ヴィヴィ。今日もプリティーね」

 年配のロシア女性特有のふっくら体形のジャンナは、大きな体を揺らしながら双子の頭を がしがし撫で倒す。

「Hello……て言うか、本当に来られるとは思ってませんでした」

 ヴィヴが乾いた笑いを漏らしながら返せば、クリスも頷いて同意を示す。

「私は行くと言ったら行くのよっ! はい、お土産」

 そう言い切ったジャンナは、双子に紙袋を押し付けた。

 中身は見ずとも分かっている。ロシア名物――マトリョーシカだ。

 ジャンナは双子に会う際は必ず買って来てくれるので、屋敷には様々なマトリョーシカが既に並んでいた。

 今回は何のマトリョーシカ? と、紙袋をゴソゴソと覗く双子。

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