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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第60章
「じゃあ、また明日! ヴィヴィも早くシャワー浴びて、ここに21:50に集合よ?」
ジュリアンは後ろに突っ立っているヴィヴィに振り替えると、腕時計を指さしながら集合時間を言い渡す。
「……わかった」
ヴィヴィも自分の腕時計で時間を確認して頷く。
(今から50分しかないのか……急がなきゃ……)
そう心の中でお風呂に入れる時間を逆算していたヴィヴィの前から、ジュリアンがひらりと身をかわして去って行く。
「じゃあね~!」
「……あ……っ」
盾を無くしたヴィヴィが腕時計から顔を上げると、当たり前だが目の前には匠海が立っていて、自分を見下ろしていた。
(お、置いてかれた……)
ヴィヴィは咄嗟に何か隠れるものがないかと視線を彷徨わせたが、
「マムと同じ部屋じゃないのか?」
と匠海に話を振られ、しょうがなくそのまま頷く。
「う……うん。一人……。今回女子は、ヴィヴィ一人……だから……」
「ふうん。……あ、これ、クリスに返しておいて。あいつ、俺の部屋に忘れて行って」
「え……?」
(お兄ちゃんの部屋に、クリスが……?)
ヴィヴィは匠海が差し出してきたTシャツに、視線を落とす。
「クリス、昨日ディナーの後、泊りに来たんだよ、隣のホテルの俺の部屋に。……クリスから、聞いてなかった?」
「う、うん……」
「田内選手と同室なんだろ? 翌日も試合で、まあお互い別室で休みたいだろうって、クリスが気を使ってな」
匠海のその説明に、ヴィヴィは綺麗に畳まれたTシャツを受け取る。
「……分かった、渡しとく……」
(……いいな、クリスは……。お兄ちゃんと好きなだけいられて……。お兄ちゃんに愛されていて……)
ヴィヴィは自分のその考えに、少しだけしゅんとする。
「どうした?」
俯いてしまったヴィヴィに、匠海が腰を少し屈めて覗き込んでくる。
「……な、なんでも、ない……」
まさかクリスに焼きもちを焼いたとは恥ずかしくて言えず、ヴィヴィは小さく頭を振る。
「ヴィヴィも泊まりに来るか?」
「………………」
「なんてな。じゃあ、ゆっくり休めよ」
匠海はそう言って苦笑すると、ヴィヴィの小さな頭をポンと撫で、背を向けて行ってしまった。