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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第60章
ヴィヴィは固まったようにその場に立ちつくし、視線だけで匠海の後ろ姿がホテルのエントランスを出ていくのを見つめていた。
その姿が完全に見えなくなり、ヴィヴィの視線がそこから外れる。
そして傍に置いていたキャスター付きのバッグを引っ張りながら、客室用エレベーターへと歩いて行き、乗り込んだ。
「………………」
静かな音を立てて昇っていくエレベーターの中、直立不動で突っ立っていたヴィヴィの瞳が、徐々に震えだす。
(……どういう……意味……?)
頭の中でそう自問していると、エレベーターが客室フロアに着き、ヴィヴィはカラカラとキャスターの音を立てながら進んでいく。
そして自分の部屋に辿り着くと、カードキーで開錠して部屋へと入った。
しんと静まりかえった部屋の入り口に突っ立ったヴィヴィの脳裏に、先ほどの匠海の言葉が蘇える。
『ヴィヴィも泊まりに来るか?』
「……――っ」
ヴィヴィはごくりと息を飲むと、ギュッと自分の両手を握り合わせる。
(そ、んな……まさか、……で、でも……)
その華奢な躰が、ぶるりと震える。
それは紛れもなく、匠海に『女として誘われたのでは?』という期待に、打ち震えたことからくる震えだった。
(何、考えてるの、ヴィヴィ……。お兄ちゃんはヴィヴィをからかっただけ。
今までだって何回も、からかわれてきたじゃない……。それと同じ……。
お兄ちゃんだって『なんてな』って続けてたし……。
そ、それに、ヴィヴィ……ぼ、『棒っきれ』だし……)
自分の上半身をぎゅっと抱きしめたヴィヴィは、自分の馬鹿な期待を頭の中から追い出そうと、ぶんぶんと音を立てて金色の頭を振る。
「……そんな訳、ないじゃない……」
ヴィヴィはそう一人ごちると小さく嘆息し、今日使った荷物をキャスター付きのバックから取り出す。
衣装を丁寧に手洗いしてバスルームに干し、スケート靴のブレードを磨いて陰干しする。
時計を確認すると、集合時間までもうあまり時間がなかった。
「シャワー、浴びよ……」
ヴィヴィは着替えのワンピースと下着をベッドの上に用意すると、バスルームで纏っていたものを脱ぎ捨て、頭から熱いシャワーを浴びた。