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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第60章          

『 マムへ

   ちょっと元気になったので、

   お兄ちゃんに会いに……仲直りしに、行ってきます。

                      ヴィヴィより 』


 その手紙を目立ちそうな場所へ置いたヴィヴィは、コートを纏うと、スマートフォンとカードキーを入れた小さなバッグを手にホテルを出た。

 もしかしたらロビーで皆と鉢合わせるかもと思ったが、時刻はもう22:00を回っており、日本の関係者はいなかった。途中何人かの外国人選手とすれ違い、お互いの健闘を称え合うと、ヴィヴィは隣のホテルへと向かった。

 そのホテルには昨日ディナーで来ていたので、大体の内装は把握していた。

 ヴィヴィ達が止まっているISU公認ホテルより贅沢な造りのホテルを見回し、客室へのエレベーターを見つけて乗り込む。

 部屋番号は昨日、匠海がジュリアンに聞かれて答えていたので、その時に無意識に記憶に留めていた。

(もしかしたらヴィヴィ、心の奥底で、お兄ちゃんの部屋に行きたいって、思ってたのかも……)

 エレベーターが着き、ヴィヴィははやる気持ちのまま足早に降りて、匠海の部屋番号を探し出す。

 そこはスイートルーム(続き間)が連なる階だったようで、そのフロアにある部屋数は少なかった。

 右の角にある匠海の部屋の前に辿り着いたヴィヴィは、服が乱れていないかさっと確認し、手櫛で髪を整える。
 
 そして部屋番号のプレートの下にあるインターフォンのボタンに、細い人差し指を添え――、
 
 ヴィヴィはそこで、ふと我に返った。

「………………」

(……ヴィヴィ、何て言えば、いいの……?

 『お兄ちゃんに、抱かれに来ました』って、直接的に言えばいいの……?

 っていうか、そんなの恥ずかしすぎて言えないしっ!

 じゃ、じゃあ、

 『お兄ちゃんが泊りに来る? って言ったから、泊まりに来た』……は?

 ……馬鹿か、って言われて、終わるよね……)

 揺れ動く心の中を表すように、ヴィヴィの躰が震え始める。

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