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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第60章          

「嘘でこんな恥ずかしい事、言える訳ないだろう?」

 そう言って妹のおでこに、ごつりと自分のそれをぶつけた匠海に、ヴィヴィは感激のあまり飛びついた。

「うそぉ~……っ」

 匠海の首に巻きつけた自分の腕に、必死に力を込める。

 なんだか今、匠海から離れたら、今言ってくれた言葉が、どこかえ消えてしまいそうで。

 幸せすぎる淡い夢が、ふっと覚めてしまいそうで。

 けれどそんなヴィヴィを、匠海はぎゅうと抱き締めかえしてくれた。

 その力強い腕と、触れ合った自分の胸に伝わってくる少し早い匠海の鼓動に、ヴィヴィはやっとこれが嘘でもなく夢でもなく、事実であり現実であるのだと解る。

(嘘……じゃ、ないんだ……。

 ヴィヴィ、本当に『お兄ちゃんだけのもの』になれたんだ……っ

 やばい……どうしようっ 嬉しい……、嬉しすぎる……っ)

 今まで苦しさだけしか知らなかったヴィヴィの胸が、まるで全ての闇から解き放たれたかのように、ふっと軽くなった。

 ヴィヴィは匠海の首に縋り付いていた腕をゆっくりと緩めると、兄の顔を見つめる。
 
 いつも心底優しいけれど、それでもどこかで何か悪だくみをしているのでは、と思わせるヴィヴィの大好きな匠海の表情。

 血が繋がっているのにも関わらず、童顔な自分とは違い、精悍で凛々しい兄の匠海の顔。

 その匠海の顔が、妹の自分をしっかりと見つめ、真正面から対峙してくれていた。

(お兄ちゃん……。好き……大好き……。

 もうダメ……。ヴィヴィ、もう本当に、お兄ちゃんの虜だよ……。

 もうどれだけ嫌われても、蔑まれても、絶対に離れられない……っ)

「好きぃ……」

 ヴィヴィの薄い唇から、泣き声にも聞こえる囁きが漏れる。

 そして兄妹は、どちらからともなく唇を寄せ合い、口付けた。

 しっとりとしているのに、弾力のあるそれに、ヴィヴィは何度も口付ける。

 そして少し頬を赤らめて、匠海を上目使いに見詰めて口を開いた。

「お兄ちゃん……抱いて……? ヴィヴィはお兄ちゃんのモノだって証拠、刻み付けて……?」

 その可愛らしいおねだりに、匠海がふっと微笑むけれど、それも一瞬で。

「手加減、出来ないぞ……?」

 ぼそりと零されたその言葉は、今まで匠海の口から聞いたどの言葉よりも、男として欲情したそれに聞こえた。

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