この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第11章
「今の貴女は私の創作意欲を掻き立てる『何か』を持っている。だから私は忙しいスケジュールの合間をぬって、ここに来ました」
ジャンナは売れっ子振付師。
シニアの選手を何人も手掛けており、彼女に振付けて欲しい選手は列をなして待っている。
双子は『元々振付をしていた母ジュリアンの子供』ということで、ジュニア選手だけれど昨年から特別にオファーを受けて貰っていた。
「……………」
ジャンナならではの最上級の褒め言葉に、ヴィヴィは灰色の瞳を見開く。
「これから振付を一新します。着いて来れますね?」
片目をバチンとつむり挑発して寄越すジャンナに、自然と背筋が伸びたヴィヴィは「はい」と大きな声で応えたのだった。
「ところで、ヴィヴィ――。ヴァイオリンやってるのよね? 『シャコンヌ』弾ける?」
「……へ……?」
突然の質問の意図を測りかねたヴィヴィが、間抜けな声を上げれば。
「弾けるの?」
「え!? ええと、一応は……」
『シャコンヌ』は中学1年の頃にヴァイオリン講師から課題として出され、
その魅力にはまったヴィヴィは、その後もちょくちょく練習していた。
「じゃあ、行きましょう」
「ど、どこへ……?」
「決まってるでしょ。ヴィヴィのおうち!」
ヘッドコーチのジュリアンに「ヴィヴィ、借りるわよ?」と大声で叫んだジャンナ。
リンクの上、他の生徒を見ていた母は、両腕で大きな○を作って了承した。
その後、あれよあれよと車に押し込められ、篠宮邸に連れ戻されたヴィヴィは、
言われるがまま防音室へと案内し、仕様が無くヴァイオリンの調弦を始めた。
(最近忙しくて弾けてないんだけど、大丈夫かな……? ていうか、なんでヴァイオリンを弾かせるの?)
頭の中は疑問で埋め尽くされていたが、目の前のソファーに深く腰掛けた恩師と視線が合い、
大きく頷いて見せたジャンナに、腹を決めたヴィヴィは弓を振り下ろした。
一概にシャコンヌと言っても、少なくとも4名の作曲家により手掛けられている。
中でも最も有名で世界中のヴァイオリニストに愛されているのが、J.S.バッハのシャコンヌ。
正確には「無伴奏ヴァイオリンの為のパルティータ第2番2短調」の第5曲にあたるもので、ヴァイオリン独走で演奏する大変難易度の高い曲である。