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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第11章            

「今の貴女は私の創作意欲を掻き立てる『何か』を持っている。だから私は忙しいスケジュールの合間をぬって、ここに来ました」

 ジャンナは売れっ子振付師。

 シニアの選手を何人も手掛けており、彼女に振付けて欲しい選手は列をなして待っている。

 双子は『元々振付をしていた母ジュリアンの子供』ということで、ジュニア選手だけれど昨年から特別にオファーを受けて貰っていた。

「……………」

 ジャンナならではの最上級の褒め言葉に、ヴィヴィは灰色の瞳を見開く。

「これから振付を一新します。着いて来れますね?」

 片目をバチンとつむり挑発して寄越すジャンナに、自然と背筋が伸びたヴィヴィは「はい」と大きな声で応えたのだった。

「ところで、ヴィヴィ――。ヴァイオリンやってるのよね? 『シャコンヌ』弾ける?」

「……へ……?」

 突然の質問の意図を測りかねたヴィヴィが、間抜けな声を上げれば。

「弾けるの?」

「え!? ええと、一応は……」

 『シャコンヌ』は中学1年の頃にヴァイオリン講師から課題として出され、

 その魅力にはまったヴィヴィは、その後もちょくちょく練習していた。

「じゃあ、行きましょう」

「ど、どこへ……?」

「決まってるでしょ。ヴィヴィのおうち!」

 ヘッドコーチのジュリアンに「ヴィヴィ、借りるわよ?」と大声で叫んだジャンナ。

 リンクの上、他の生徒を見ていた母は、両腕で大きな○を作って了承した。



 その後、あれよあれよと車に押し込められ、篠宮邸に連れ戻されたヴィヴィは、

 言われるがまま防音室へと案内し、仕様が無くヴァイオリンの調弦を始めた。

(最近忙しくて弾けてないんだけど、大丈夫かな……? ていうか、なんでヴァイオリンを弾かせるの?)

 頭の中は疑問で埋め尽くされていたが、目の前のソファーに深く腰掛けた恩師と視線が合い、

 大きく頷いて見せたジャンナに、腹を決めたヴィヴィは弓を振り下ろした。



 一概にシャコンヌと言っても、少なくとも4名の作曲家により手掛けられている。

 中でも最も有名で世界中のヴァイオリニストに愛されているのが、J.S.バッハのシャコンヌ。

 正確には「無伴奏ヴァイオリンの為のパルティータ第2番2短調」の第5曲にあたるもので、ヴァイオリン独走で演奏する大変難易度の高い曲である。

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