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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第61章
視線の遥か彼方まで広がる草原の中、ヴィヴィは何故か広葉樹の幹にしがみ付いて震えていた。
小さな靴が脱げてしまった片方の足を、冷え始めた空気が不安を煽るように撫でていく。
日が暮れ始め、強くなった風が、眼下に広がった草をざわざわと音を立てて吹き抜けていく。
ヴィヴィの小さな唇が不安げに歪み、「ふぇええ」という小さな泣き声が漏れる。
ほんの冒険のつもりだったのだ。
母親の生家にある、広大な庭から一歩外に出て、すぐ傍にある可愛いお花を摘んで、そしたらすぐに戻るつもりだった。
『………………』
(ことりさんが、わるいんだもん……)
ヴィヴィのピンク色の唇が、小さく尖る。
初めて目にした青い鳥がヴィヴィを誘うようにさえずり、この草原まで連れてきた。
そしてこの大木の枝にとまった青い鳥を、ヴィヴィはただ追いかけて登り、降りれなくなっただけ。
(ヴィヴィは、わるくないんだもん……)
もう20分ほど、ヴィヴィはこの前進も後退も叶わぬ状態で、泣いていた。
けれどそんなヴィヴィをすぐに見つけ出し、ずっと見守り根気強く待ってくれている人がいた。
『ヴィヴィ、降りておいで』
そう猫撫で声で下からこちらを見上げているのは、6歳も年上の兄――匠海。
『やだぁ……こわいよぉ……』
『大丈夫。僕が受け止めてあげるから』
まだ身長が130センチしかない匠海にそんなことを言われても、ヴィヴィは怖くて飛び降りれるはずもない。
なにせもっと高いところまで登ってしまったヴィヴィからは、自分より50センチも背の高い匠海といえど、より一層小さく見えてしまう。
『やぁっ こわいっ』
『僕のこと信じて。絶対に落とさないから、離さないから』
『ふええんっ』
かれこれ15分、ずっとこの調子で兄妹はまんじりともせぬ時を過ごしていた。
『ほら。おいで』
匠海が優しく微笑みながら、ヴィヴィに向かって両腕を広げて見せる。
もちろんヴィヴィだって、大好きな匠海のもとへ一秒でも早く降りて行きたい。けれど、
『……おにいちゃま、ヴィヴィのこと……おこらない?』
『え?』
匠海が不思議そうに小さく首を傾げる。