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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第61章       

『こんな木のぼって……、おこらない?』

『怒らないよ』

『ほんとう……?』

『本当だよ』

 困ったように笑う匠海は、嘘など付いていないようだった。といっても、匠海はヴィヴィにもクリスにも嘘などついたことは一度もなかったが。

(おこらないんだったら、ヴィヴィ、とぼうかな……)

『……とべたら、チューしてくれる?』

 飛ぶことは決心したが、勇気の出ないヴィヴィは、そう我が儘を口にしてみる。

『してあげるよ。抱っこもしてあげる』

『…………じゃあ、とぶ』

『ああ、おいで』

 可愛らしいヴィヴィのその交渉術に、匠海が笑いながら再度、小さな妹に対して両腕を開いて見せた。

 その途端、ヴィヴィのソックスに包まれた小さな足が太い幹から離れ、金色の細い髪が宙を舞う。

『偉いぞ。怖かったね』

 目を瞑って飛び降りたヴィヴィが次に目を開けた時、目の前にあったのは、ほっとした表情で自分を覗き込んでくる、匠海の顔だった。

『ふぇえ……おにいちゃまぁ~』

 ヴィヴィが灰色の瞳に沢山の涙を潤ませ、その小さな手で匠海に縋り付く。

『ほら、ちゃんとヴィヴィのこと、掴まえただろう?』

『うん。おにいちゃま……うぇええん』

 優しく自分を抱きしめてくれる匠海に、ヴィヴィが今度は安堵して泣き出した。

『ほら、頑張ったヴィヴィにキスしてあげるから、泣き止んで?』

『うん。おにいちゃま、もっと』

 おでこに匠海からキスを貰ったヴィヴィは、そう言って可愛らしくおねだりする。

『もっと?』

『もっと、チューして?』

 さすが「魔の2歳児」。今泣いた烏(カラス)が、次の瞬間にはもう笑っている。

『いいよ、でもその前に! もう絶対に一人で木登りなんかするな! 落ちたら危ないだろうっ』

『ふぇ……おこらないって、い、いったのにぃ』

(おにいちゃまの、うそつきぃ……)

 匠海の厳しい声とその表情に、ヴィヴィはまた半べそをかく。

『ヴィヴィが大事だから、怒るんだよ? ヴィヴィがいなくなったら、僕はきっともう――』

『……おにいちゃま……?』

 ヴィヴィが匠海を見上げながら、こてと金色の頭を傾げる。

(おにいちゃま? どうして、そんなさみしそうな、おかお、するの……?)

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