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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第11章
「俺の用事は終わったから大丈夫だよ、ヴィヴィ。じゃあ、ジャンナ。ごゆっくり」
匠海はそう言い残すと、ジャンナに挨拶をして防音室を出て行った。
取り残されたヴィヴィはといえば、無意識に強張らせていた肩を落としていた。
「…………ふうん」
静寂が下りた防音室に、ジャンナの小さな吐息が響く。
はっと顔を上げ彼女を見ると、振付師は何かを見極める様にヴィヴィを見つめていた。
が、やがてその視線を瞬きで遮ると、何事も無かったかの様に語り始めた。
「ヴィヴィのシャコンヌ……。悩み、もがき、立ち止まり――どうして良いか分からず、苦しんでいる……。そういう風に聞こえたわ。聴けて良かった……。これで私のFSのイメージは固まったわ」
「………………」
(悩み、もがき、立ち止まり――どうして良いか分からず、苦しんでいる……)
本当にその通りだと、ヴィヴィはジャンナの洞察力に舌を巻き黙り込むしかなかった。
「迷い戸惑い、狂い――そして破滅へと導かれる少女」
「…………え?」
スケートのプログラムのテーマにしてはあまりに重く、
華やかなスケートには一見不釣り合いとも思える そのテーマに、ヴィヴィは狐に抓まれたかの様な顔をする。
「ヴィヴィ。私はフィギュアは『美しさ、楽しさ、幸せ』だけを表現するもではないと思うの。その時の自分に近い感情……例えば『汚くて、暗くて、辛(つら)い』といったものを演じた方が、よりその時の自分に相応しい――逆に言えば、『その時の自分にしか表現出来ないプログラム』になると思う」
「……………」
ジャンナの説得力のある言葉に、ヴィヴィは次第に感化されていく自分を感じていた。
(無理して、笑わなくても、いいの――?)