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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第11章
「苦しいなら「苦しい」って言いなさい、ヴィヴィ。でももし言葉に出来ないのなら、スケートで表現してみたらどう?」
「ジャンナ……」
小さな顔が、力無く くしゃりと歪む。
苦しいの。
辛すぎて、立場も場所も何も弁えずに、
いっそ喚いてしまいたくなる――
でも、でもそんなこと、
絶対に出来やしない……
だらりと降ろした両腕の先、小さな拳をぎゅうと握り締める。
自分はこのまま暗闇に飲み込まれ、立ち止まったままではいられない。
いてはいけない。
ならば、いっそ――
ジャンナは辛抱強くヴィヴィの答えを待っていてくれた。
やがてきゅっと表情を引き締めたヴィヴィは、まっすぐに振付師を見据え、発していた。
「振付の変更、宜しくお願いします――」
その後リンクに戻ったジャンナは「新しい振付が脳から溢れ出して零れてしまいそう!」と言わんばかりに、必死に振付けを施した。
そしてたった数時間で新しいFSを完成させ、最後にヴィヴィに滑らせると至極満足気に微笑んだ。
このまま空港へ移動し、アメリカへ振付チェックに行くというジャンナを、ヴィヴィはスケートセンターの玄関まで見送った。
ジャンナの荷物を運んできたヴィヴィから それを受け取ると、タクシー運転手に預ける。
「来てくれて、ありがとう、ジャンナ」
それは心の底からの感謝だった。
そんな生徒の細い腕を掴んだジャンナは、己の方へと ぐいと引き寄せた。
「『シャコンヌ』はある説では、どうやらセクシャルな意味を持っていて。昔は公の場では演奏を禁止されていたらしいの」
耳元で囁かれたジャンナ言葉――その意図が解らず、ヴィヴィは目の前の緑の瞳を見返す。
「ヴィヴィ。貴女の演奏……“セクシー” だったわ――」
「――――っ」
目を丸くし絶句したヴィヴィを一瞥し、ギュッとハグをしたジャンナは、
さっさとタクシーに乗り込み、嵐の如く唐突に去って行った。