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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第61章       

 紺色のワンピースに袖を通してボタンを留めているのに、その襟元に高い鼻を埋められ、シャツの下の胸に掌を添えられ、その形を確かめられる。

「お、お兄ちゃん……」

「ん?」

 匠海の短いその返事に、ヴィヴィは心を鬼にして返す。

「き、着替えれないよ……?」

(ヴィヴィだって、ずっと触れられてたいんだよ……?)

 困ったようにそう言って自分を見上げてくる妹に、匠海がぼそりと一言。

「……頑張れ」

 そしてまた、ヴィヴィの躰に触れてくる。

(え゛ぇ~~……)

 心の中で脱力した声を上げたヴィヴィは、その後何とか身支度を整えると、部屋の玄関まで匠海に送られた。

「ほら、もう行かないと」

 先ほどまで散々ヴィヴィの邪魔をしたくせに、置き時計を見て匠海が呟く。

 6:30を指し示した時計を確認したヴィヴィは、玄関で匠海を振り返り、背の高い兄を見上げる。

「お兄ちゃん、パリまで来てくれて、本当にありがとう。ヴィヴィ、すっごく嬉しかった。あと……、勉強大変だと思うけど、体、気を付けてね?」

「お前も、色々頑張りすぎるなよ」

 そう優しい言葉をくれた匠海に、ヴィヴィは満面の笑みを浮かべる。

「大丈夫!」

 匠海が小さく微笑み、ヴィヴィの金色の頭を撫でてくれる。

 その大きな兄の掌の下で、ヴィヴィは恐る恐る口を開いた。

「あ、あの……」

「ん?」

「えっと……、メ、メールしても、いい……?」

「いいよ」

 ふっと笑った匠海に、ヴィヴィはもうひと押ししてみる。

「で、電話は……だ、ダメだよねっ?」

「ふ……電話もしていい」

 そう言ってくしゃりと妹の金色の髪を撫でる匠海に、ヴィヴィは感激のあまり飛びついた。

「お兄ちゃんっ 大好きっ!!」

(もう、ほんと、大大大好きっ!!)

 匠海の胸にまるで顔を擦り付ける様に甘えてくるヴィヴィを、兄は抱きしめ返してくれたが、忠告するのも忘れなった。

「でも、時差考えてね」

「あ……気を付ける」

 そう言って顔を上げて笑ったヴィヴィのおでこに、匠海がちゅっと口付した。

「じゃあな」

 扉を開けてそう送り出してくれた匠海に、ヴィヴィは廊下で何度も振り返って手を振ると、到着したエレベーターに飛び乗った。

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