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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第62章
(両親とクリスを最悪な形で裏切っておいて、
少しは罪悪感を感じないのかって――?
そんなもの――、もう、感じてなどいられない。
そんなものを感じている時間があるのなら、
ヴィヴィはお兄ちゃんを感じていたい)
ヴィヴィは目の前の匠海を見つめてにこりと微笑む。
匠海も優しい瞳で見つめ返してくれる。
(お兄ちゃんが欲しいの。
お兄ちゃんの心も躰も、全てが欲しいの。
だからヴィヴィは、罪悪感なんて、感じない……)
ヴィヴィは無意識に胸元に手をやる。
そしてその指先に確かに感じるそれに触れながら、口を開く。
「マム……12時からの練習で調子がよければ、エキシビでもアクセル、飛んでいい?」
「え? どうして?」
元々、今季のエキシビションナンバーには、3回転アクセルは組み込まれていないため、ジュリアンがそう確認してくるのも無理はない。
「少しでも実戦――まあ、エキシビは試合じゃないけど、公式な場で試しておきたいの」
「度胸をつけるため?」
「うん」
そう頷いて真っ直ぐ見つめてくるヴィヴィに、ジュリアンは「練習で調子よければ、……いいわよ?」と承知してくれた。
食事を終えた4人は、しばらくコーヒーを飲んで寛いでいたが、やがてお互いのスケジュールが迫り、名残惜しそうに席を立つ。
「じゃあね、匠海。オックスフォードに帰り着いたら、メールでもいいから一報入れてね?」
ジュリアンがそう言いながら、背の高い匠海の頬に手を添える。
「ああ。分かった」
「ちゃんと食事とるのよ? ジャンクフードばっかり食べてちゃだめよ? 睡眠もちゃんと取るのよ! 匠海はすぐ仕事とか読書とか没頭しちゃって、睡眠取るの忘れるんだから!」
「はいはい。大丈夫だってば」
そう言って苦笑した匠海は、ジュリアンをその胸に抱き寄せて、ポンポンと背中を叩く。
「クリス、またな。お前も色々と忙しいの分かるけど、少しは休暇も取れよ?」
「うん。兄さんもね……」
クリスも寂しそうな瞳で、匠海に軽くハグをする。
(マムとクリスは、まだ知らないんだ……。お兄ちゃんが1ヶ月後のドイツの試合にも、来てくれること……)