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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第62章      

 シーズンオフの今年の4月。

 ヴィヴィは匠海に告白し、その結果、兄を精神的にも肉体的にも痛めつけ、そして殺されかけた。

 その結果、兄に殺されて死んだ自分は、『周りが見たい理想の自分』を演じて生きていこうと、ヴィヴィはある意味捨てばちになっていた。

 そんなヴィヴィに宮田が選んでくれたのが、この曲だったのだ。

『僕がこの選曲をした理由を、今シーズンを通して、じっくり考えてみて?』

 振付の最後の日、宮田はそう言って、ヴィヴィにこのプログラムを託した。

(ヴィヴィは正直、まだ、分かってないの……)

 ジャッジに提出している、SPのテーマは『怒り』。

 グレーのグラデーションが印象的な衣装の胸元には、薄黄色と薄紅色のスワロフスキーの刺繍。

 シンプルに結上げた金髪には、花弁の先端のみ薄紅色の、薄黄色の薔薇飾りがなされている。

 それはその名も『ペール・ギュント』という、実際に存在する薔薇の品種を模していた。

(ヴィヴィは、分かるだろうか……理解できるだろうか。

 宮田先生が心血を注いで創り上げてくれたこのプログラムの、

 真の目的を……)

「ヴィヴィ、そろそろ」

 そう言って自分をリンクサイドへと誘導するジュリアンに、ヴィヴィは頷き立ち上がった。







「お疲れ様~! 優勝おめでとう、クリス! ヴィヴィ!」

 NHK杯、大会最終日。

 夕方のエキシビションを終えた選手・関係者は、夜から行われているクロージング・バンケットを楽しんでいた。

 双子は同じテーブルになった村下佳菜子、宮平知子、羽生(はぶ)結弦、アイスダンスの渋谷兄妹、ペアの棚橋成美とマーヴィン藤堂からそう祝福の言葉を受け、微笑んでお礼を言う。

「ありがとう。みんなもファイナル進出決定、おめでとう!!」とヴィヴィ。

「みんなと一緒に、ドイツに行けるの、嬉しい……」とクリス。

「ここに火野っちいたら、平昌五輪の団体チーム、勢揃いだったのにな?」

「そうだね~。本当に残念……」

「龍樹の分も、みんな頑張ろう!」

 口々にそう言い合いながら、皆が半月後に控えるグランプリ・ファイナルへの士気を高める。

「だよね! なんたって、次のオリンピックの、ミュンヘンのリンクを経験出来るんだもんね」

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