この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第62章
11月中旬のNHK杯を終えた双子は、12月頭にまた予備校の基礎力の模試を受け、受験勉強とスケート、その他を何とか両立していた。
しかしさすがにシーズン真っ最中での受験勉強、バレエのレッスンに、ヴィヴィは結構ぎりぎりの精神状態で日々を過ごしていた。
それを支えてくれたのは、クリスや両親、友人達は勿論、匠海とのメールや電話だった。
「もう本当に無理」と思った時は、ちゃんと時差を考慮に入れてテレビ電話を掛け、大好きな匠海の顔と声に癒され、ヴィヴィは頑張った。
12月5日~9日に行われるグランプリファイナルへと出場するため、ドイツのミュンヘンへと旅立つ数日前。
匠海はやっとヴィヴィ以外の家族に「土日に観戦に行く予定」と連絡を寄越し、仕事で来られない父以外の家族は諸手を挙げて喜んだ。
12月7日(金)。ドイツ、ミュンヘン。
『グランプリファイナル2019 シニア女子シングル、最終滑走者です。八木沼さん。SPの滑走順は、これまでのグランプリシリーズ6戦の中での獲得ポイントが低い選手からの滑走順ですが、その最終滑走者が若干16歳の篠宮選手というのは、これからの日本フィギュア界にとっては、物凄く心強いですね?』
「はい。まずグランプリシリーズ自体にエントリーするだけでも、先シーズンの世界選手権上位であったり、ISUランキングの上位であったり、という出場資格を満たしていなければなりません。その最終戦でもトップということはそれだけで素晴らしく、まさに今のフィギュア界の縮図がここにあるといった感じですね」
『ただその本人は「未来の五輪開催リンクで滑れるなんて、ワクワクする!」とコメントしていて、オフリンクではとても無邪気な少女なんですけれどね?』
「はい。ファイナルでも緊張せずに、楽しんで滑って貰いたいですね」
『その篠宮選手。今日の夜にSPを控える兄のクリス選手と、ジュリアンコーチに送り出されてリンクへと現れました。時間いっぱい使って、グレーの衣装の胸元に手を添え、心を整えます。篠宮ヴィクトリア選手。曲はグリーグ作曲、劇音楽「ペール・ギュント」より「山の魔王の宮殿にて」』