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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第62章      

「そして五輪の金、世界選手権の金という、今や追われる立場となった篠宮選手ですが、今シーズン、アクセルの不調もあり、メンタルが安定していない印象を受けていました。しかし最近は肝が据わったいいますか、自信が漲っている良い印象を受けます」

『そうですね。アクセルについては昨日の公式練習、今朝の練習、6分間練習、全てで決まっていましたしね』

「ええ。これから最も楽しみな選手の一人です」

『キスアンドクライでコーチ達と得点を待ちます、篠宮選手。場内見守る中……SPの得点が出ました。他の選手を寄せ付けない、堂々のトップ――! 篠宮選手、グランプリファイナルのSP、1位で明日のFPへ進みます!』

「はい。明日も落ち着いて纏めてもらいたいと思います」

『両手を挙げて笑顔で大観衆に応えます、篠宮選手。素晴らしいSPでした!』







 12月8日(土)。

 13時からの女子シングルFPで、見事3回転アクセルを単独でもコンビネーションでも決めたヴィヴィは、圧倒的な大差を持って金メダルに輝いた。

 既に表彰式も終え、ISU公式記者会見も、ドーピング検査も終えたヴィヴィは、ホテルでシャワーを浴びて仮眠をとると、17時前から始まる男子シングルFPの応援の為、会場へと戻っていた。

「此度は、わらわがクリスに、金メダルパワーを、注入してさしあげようぞ~~」

 バックヤードで両掌をかざしてそう言い、冗談ぽくクリスの手を取ろうとしたヴィヴィは、何故だかクリスの胸に抱きこまれていた。

 スケート靴のエッジの高さ分、いつもより背の高いクリスの胸の中は、意外なことにかなり逞しくなっていた。

(男の子って、やっぱり違うんだな~、色々と……)

「パワー、充電しまくりました……」

 緊張のきの字も感じさせないクリスは、そう言ってヴィヴィから体を離すと、ジュリアンと一緒にリンクサイドへと入っていく。ティッシュケースを抱えたヴィヴィも、その後に付いていく。

 目の前のリンクの中では、羽生(はぶ)が滑っている。

 その姿を普通に見ていられるクリスは、何事にもぶれない強い精神力があるのか、集中しきっていて視覚も聴覚も内側に集約しているのか、それとも何も感じていないのか――。

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