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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第62章      

 演技を終えた羽生と入れ替わり、日本代表ジャージを脱いだクリスがリンクへと入っていく。

 エッジケースを受け取ったヴィヴィは、ぐるりと会場内を見渡した。

 クリスは日本だけでなく、世界中で人気がある。

 それは会場内の至る所に飾られているバナー(横断幕)を見れば分かる。

 日本語は勿論、英語、ドイツ語、はたまた中国語、フランス語のバナーまであるのだ。

「リアル・王子様……か……」

 ヴィヴィは誰にも聞こえない程小さな声で、そう呟く。

 双子は二卵性双生児なのに、何故か容姿が似通っていた。

 灰色の大きな瞳はくっきりとした二重の中で輝き、すっと通った高い鼻筋と深すぎない彫り、薄い唇。

 暗めの落ち着きのある金髪の髪質や、白くきめ細かい肌の質感まで瓜二つ。

 なのに、男と女なので、やはり根本的な造りが違う。

 小さい頃から、周りからはよく『ヴィヴィは動・クリスは静。合わせて2で割ったらちょうどいいのに』と言われ続けてきたが、ヴィヴィは今、リンクの中にいるクリスを決して『静』とは思わない。

 名前がドイツ語と英語でコールされ、母とヴィヴィに見送られたクリスがリンクでポーズを取り、音楽と共に滑り始める。

 氷の上に乗ったクリスは、まるで水を得た魚の様。

 いつも無表情・無口・無感動と言われる彼からは想像も出来ないほど、表情豊かに雄弁に、溢れ出す情熱そのままのスケーティングをする。

 フルートのビブラートが奏でる、ぼんやりとした気だるげな音色の中、本来のクリスが目を覚ます。

 途轍もない速度に乗っているのに、その体の動きはまるで、筋肉の一つ一つ、関節の一つ一つを意識して動かしているかのような、洗練され研ぎ澄まされたもの。

 それが静謐な音色の中で、クリスの中のほど走るような熱い何かを、見ている者により際立たせて印象付ける。

(クリス……どうして、この曲にしたんだろ……)

 ヴィヴィはクリスが4回転などの大技を次々と決めていく中、ぼんやりと頭の片隅で思う。

 夏の昼下がり、好色な牧神が午睡のまどろみの中、官能的な夢想に耽る――そんな難しいこの曲。

『まあ、クリスも16歳だし……色々思うところもあるんでしょ』

 このプログラムを振付けた、ロシア人振付師のジャンナの言葉がよぎる。

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