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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第62章
(そう言えば……お兄ちゃんも、そういう時期、あった気がする……)
高校生という心と体が大人にもなり切れておらず、けれど決して子供でもないという、どこか危うく脆い時期。
匠海はヴィヴィが見ていた限り反抗期もなく、周りとの軋轢など皆無に等しく、いつも穏やかだった。
けれど時折――本当にごく稀に、どこか不安そうな顔を覗かせる瞬間や、他を寄せ付けない緊迫した空気を纏っている時があった。
前者の時は、まだ小学校高学年であった幼いヴィヴィが「お兄ちゃん大好き! 構ってかまって!」と尻尾を振る子犬の如く纏わりつくと、直ぐに不安そうな表情は掻き消え、極上の微笑みを向けてくれた。
しかし後者の時は、いくら能天気で『お子ちゃま』全開のヴィヴィでさえ、一瞬声をかけるのを躊躇した。
(そういうところ、やっぱり兄弟なんだろうな……お兄ちゃんも、クリスも……)
今のクリスには危ういところはないが、いずれやって来るかもしれないそんな『大切な時期』を、ヴィヴィは傍で静かに見守り、支える事が出来ればと思いながら、演技を終えてまた無表情に戻ってしまったクリスへと、盛大な拍手を送った。
SPもFPも1位の完全優勝を果たしたクリスの表彰式が終わり、ヴィヴィは牧野マネージャーと一足早く、ISU公式ホテルへとタクシーで戻ってきた。というのも、
「お兄ちゃんっ!!」
ホテルのエントランスに入るや否や、そう叫ぶように発したヴィヴィが、ロビーのソファーに座っている匠海に向かって駆け出す。
チャコールグレーのコートを纏った匠海が、ヴィヴィに気づいて苦笑し、飛び付いてきたその華奢な体を立ち上がって受け止めた。
「お兄ちゃんっ!! 会いたかった~っ!!」
めいいっぱい背伸びをしてその首に縋り付いたヴィヴィだったが、何故か匠海は抱きしめ返してくれない。
「ヴィヴィ……お前、牧野さんに荷物を、押し付けてくるんじゃないよ」
第一声、呆れたようにそう忠告してくる匠海に、ヴィヴィは「あ……」と声を上げ、しがみ付いていたその腕を放す。
振り返った視線の先には、先ほどまで自分が引いていたキャスター付きのバッグを転がしてくる、牧野マネージャーがいる。
「ご、ごめんなさい!」