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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第62章
「夏休み、英国に里帰りして、酔っ払って暴れてた……」とクリス。
「あ、暴れてはないっ、と、思う……?」
最後のほうは自信なさそうに、ヴィヴィは首を傾げた。
母の生家エディンバラで、匠海にベアワンピのことで睨みつけられたヴィヴィは、やけくそになって牛乳を暴飲してくだを巻き、結果、匠海に荷物のように背負われて部屋に返された。
「それはまた、安上がりで健康的な呑兵衛だね~!」
「やっぱりヴィヴィは『お子ちゃま』なんだね~」
皆が好き勝手にそう言い合うのを、ヴィヴィは灰色の瞳を半目にしながら聞き流していた。
(お兄ちゃん……席、離れちゃった……。いっしょに食事できると思ったのに……)
ヴィヴィはちらりと匠海の座っている少し離れた席を見る。
牧野マネージャーと羽生のトレーナー、選手の誰かの家族と、楽しそうに酒を酌み交わしている。
(まあ、来てくれただけでも、とっても嬉しいんだけど……。こうやってお兄ちゃん、盗み見できるし)
ヴィヴィは皆に気づかれないよう会話をしながらも、ちらちらと匠海のほうを見ていた。
やがて匠海が化粧室へと立ったのを見て、ヴィヴィは「チャンス!」と思い、一分後に席を立ち、兄を追った。
迷路のような廊下を抜け、化粧室の前に辿り着くと、ちょうど匠海が中から出て来るところだった。
「お兄ちゃんっ!」
ヴィヴィはそう呼んでその胸に飛び込もうとしたが、匠海に両肩を掴まれて止められた。
「こんなところで抱き付くな。変に思われるだろう?」
「え……う、うん……ごめんなさい……」
静かな声でそう返してきた匠海に、ヴィヴィは戸惑いと共に謝罪する。
(そうか……、こんなとこで兄妹が抱き合ってたら、変か……。変――かな……?)
「あ、まだ言ってなかった。金メダルおめでとう、ヴィヴィ」
ヴィヴィの肩から手を離した匠海が、そう言ってにっこりと笑ってくれる。
「あ、うん! ありがとう、お兄ちゃんのおかげだよ!」
「俺の……?」
「うん……これのおかげ!」
ヴィヴィはそう言うと、ワンピースの首元で光っている馬蹄型のペンダントトップを、嬉しそうに指先で持ち上げる。