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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第63章        

「ヴィクトリア……」

 匠海の泊まっているホテルの部屋に現れた、ヴィヴィを見た兄の第一声は、それだった。

 それも、驚きと当惑をごちゃ混ぜにした表情を、その端正な顔に浮かべて。

「えへへ。来ちゃったっ♡」

 ヴィヴィはそう楽しそうに言うと、可愛らしくちろりとピンク色の舌を出して見せる。

「馬鹿……。来るならくるって言え。こんな夜遅くに女の子一人で、危ないだろ?」

 何故か脱力した様子の匠海に、ヴィヴィは、

「大丈夫。タクシー使ったも~んっ♪」

と嬉しそうに、20センチも高い匠海の顔を覗き込む。

「マムとクリスは、ここに来てる事、知ってるのか?」

「知らないよ。言ってないも~ん。でも、同室の知子ちゃんには言ってきたよ、いきなり居なくなったら心配させちゃうからね~。うふふ、ヴィヴィ、良い子でしょう?」

 そう言ってこてと金色の頭を傾げたヴィヴィに、匠海がこつりと拳骨を落とす。

「ど・こ・が? まったく、しょうがない不良少女だな。とにかく入れ……。なんか飲むか?」

 匠海はそう言うと、ヴィヴィを部屋に招き入れ、玄関の扉を閉めた。

 ヴィヴィに背を向けて部屋の中へと歩いていく匠海の背に、柔らかな何かが触れたかと思うと、コートを纏った細い腕がその腰に巻きつけられた。

「ううん……。それより、ヴィヴィ。お兄ちゃんが欲しい……」

「ヴィクトリア……?」

 先程までとは温度の違いすぎるヴィヴィのその声音に、匠海が困惑した声を上げる。

 そしてその腰に縋り付いた腕からは、微かな震えが伝わってきた。

「お兄ちゃんは、ヴィヴィ……いらなかった?

 ヴィヴィの事……、抱かずに明日帰るつもりだった……?」

 その声は、聞いている匠海さえも切なくさせるような、恐々と震えたそれだった。

「………………」

「……お兄、ちゃん……?」

(お願い……何か、言って……っ)

 ヴィヴィは祈るような気持ちで、そう匠海を呼ぶ。

 その数秒後、匠海は深い溜め息と共に口を開いた。

「はぁ……。もう少ししたら電話して、近くまで迎えに行こうと思っていた」

「……どうして……?」

 ヴィヴィのその問いに、匠海は自分の腰にしがみ付いている妹の腕を解いて、ゆっくりと振り返る。

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