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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第63章
匠海が振り返った先にいたヴィヴィの瞳には、もう零れ落ちそうなほどの涙が溜まっていた。
「……お前を抱きたいからに、決まってるだろう?」
「……本、当……?」
そう言ってくしゃりと顔を歪めたヴィヴィから涙が零れ落ちる前に、匠海は自分の胸に妹を抱き寄せた。
「馬鹿……。こんな事ぐらいで、泣くな……」
ヴィヴィの頭と腰に回した大きな掌に力を込めながら、匠海がそう言って妹を諭す。
「な、泣いてないもんっ」
ぐすっという鼻をすする音と共に零されたヴィヴィのその強がりに、匠海は苦笑して妹の金色の頭を撫でてくる。
その優しい掌の感触に、ヴィヴィはやっとほっとして、更に匠海に縋り付いた。
(嬉しい……。やっと、やっと、抱き締めて貰えた……っ)
「ずっと、抱きしめたかったよ……。ヴィクトリア……」
ヴィヴィの髪に顔を埋めるようにそう告白した匠海に、ヴィヴィの胸がきゅうと疼く。
「ヴィ、ヴィヴィも……っ」
そう言い募ったヴィヴィは、胸いっぱいに匠海の香りを吸い込む。
(ああ……、1ヶ月ぶりの、お兄ちゃんの、匂いだ……。全身を包まれてるみたいに、とっても安心するのに、凄くドキドキも、する……)
やがて落ち着きを取り戻したヴィヴィから腕を緩めた匠海は、妹が纏ったままだったコートをゆっくりと脱がせ、クローゼットへと仕舞ってくれた。
じっとその灰色の瞳で匠海を見つめていたヴィヴィに、兄はふっと笑うとその手を引いて、広いリビングスペースに据えられた大きなソファーへと導く。
4人掛けの深いソファーに浅く腰掛けた匠海は、その膝を跨らせる様にヴィヴィを膝立ちにさせた。
匠海を見下ろす形となったヴィヴィを、兄が下から見上げてくる。
「ヴィクトリア……、お前、化粧してる?」
いきなりの質問に、ヴィヴィは一瞬首を傾げたが、すぐに答える。
「えっと、透明なグロスだけ、塗って――んっ」
匠海はヴィヴィのその答えを最後まで聞かず、妹の唇を傍にあったティッシュで拭い取った。
「化粧なんかするなよ。まだ16歳なんだから」
なぜか不機嫌そうにそう言われ、ヴィヴィはきょとんとしながら頷く。
「え……? う、うん……」
(化粧なんて、試合の時はいつもしてるのに……。グロス、似合ってなかったかな……?)