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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第12章
全日本ジュニアの会場は九割ほどの観衆で埋められていた。
ヴィヴィと同じスケートクラブの子達が用意してくれた手作りのバナーや、先シーズンにジュニアに上がってから出来たファンのバナーも飾られている。
それらを見つめながら精神統一したヴィヴィは、ふうと大きく息を吐くと、
優雅な予備動作を入れながら横を向き、両腕で頭と腰を抱きしめるポーズをとる。
『曲はJ.S.バッハのシャコンヌ……篠宮選手は「今の自分自身を見てほしい」と語ります。まずは冒頭のトリプルアクセル。決めることはできるか?』
「決めましたね。高さもありランディングも流れがある、高い加点の付くジャンプです」
『ここからさらに勢いをつけていきたい。二つ目のトリプルアクセルのコンビネーションジャンプ――』
「トリプルアクセル、トリプルトゥーループ。二つ目のジャンプも高さがありましたね」
「トリプルフリップ、ダブルループ」
『フライングシットスピン。これはポジョションや手の表現が工夫されていて、素晴らしいですね?』
「ええ、自分の感情に戸惑っている様子がよく表現されています。スパイラルシークエンスでも悩んでいる様を表現しています。足をこれだけ上げながらのこの複雑な振り付け――簡単そうに滑っていますがバランスがとても難しいです」
『演技は後半に入りました。トリプルルッツ――そしてトリプルサルコウ、ダブルループ、ダブルループ。三連続のジャンプも難なく決めました』
「トリプルトゥーループ。降りた後の手の振り付けもいいですね」
『そして最後のジャンプ――ステップからのダブルアクセル。高い! 見事すべてのジャンプを決めました。会場からは大きな拍手が上がっています』
『最後は狂い、破滅へと進んでいく様をストレートラインステップで表現しています。嘆き悲しむ表情から、最後は諦め、運命に全てを委ねるような達観の笑み――』
「曲の強弱のつけ方も素晴らしいですね――これ程の表現を十四歳の少女が滑れることが、正直、信じられません」
『ああ、スタンディングオベーションが起こっていますね。これは信じられないものを見せてきました、篠宮選手』
「はい。このプログラムなら十二月に招待選手として出場する全日本シニアでも、十分通用しますね」