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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第12章
「そうそう、スケ連(日本スケート連盟)に二人宛の手紙やプレゼントがいっぱい届いてるから、転送しますって連絡があったわ」
と、母ジュリアンがまるで自分のことのように誇らしげに言う傍ら、ヴィヴィは鼻から下をクッションで隠して、一人物思いにふける。
(私……頑張ろう――お兄ちゃんに、もっと私を見てもらえるように。妹として誇りに思ってもらえるように。そして――)
ヴィヴィは家族の楽しげな声に耳を傾けながらも、視線は広い庭へと続く窓ガラスに写った自分へと移す。
(私が、私自身に誇りを持てるように……自分のこと、好きになれるように――)
12月25日。
世の中の大半の人が、大切な人と一緒に時を過ごしたいと思うその日――。
ヴィヴィとクリスは朝の六時からずっと、各局のテレビ番組に連れまわされていた。
現在夕方の五時を回ったところ。
夕方のニュース番組に出演中のヴィヴィは、小さな顔に笑顔を張り付けながら頭の中では全く別のことを考えていた。
(私達、20日(水)からずっと学校休んでるんだけどな……。今日も月曜日で学校なんだけどな……)
双子の目の前では出演者用のモニターに、全日本選手権のお互いの演技のハイライトが流されている。
正直、今日何回同じものを見せられただろう。
少なくとも五回は見た――とヴィヴィは数えてみる。
番組セットの足の長い不安定な細い椅子から転げ落ちないよう、ヴィヴィは背筋を伸ばしてあくびをかみ殺す。
「お互いの演技を振り返って、どうですか? まずはお兄さんのクリス君」
この質問も何度目だろう。
そんなに大雑把な質問をしないで欲しいと思いながら、クリスのほうを向く。
ヴィヴィと同じスケ連のエンブレムが付いたジャケットを羽織ったクリスが、口を開く。
「妹の演技は毎日隣で見ているので、日々その成長を把握していたつもりでしたが、本番になるとさらに肝が据わるというか――こんなに滑れたか? といつも驚かされます」
いつもは言葉少なく寡黙なクリスが、真顔ですらすらとヴィヴィの演技の感想を述べる。
久しぶりにクリスに「妹」と呼ばれ、なぜか少しこそばゆい。
「なるほど。土壇場に強いのですね。ヴィヴィさんはどうですか?」