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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第12章
「ええと……クリス――兄の演技はいつもながら、緊張と緩和の使い分けが絶妙だと思います。今回もジャズの音の拍子を的確に踏まえて演じているので曲との調和が高く、私も見習いたいと思います」
(まさにダッドの『英才教育』の賜物――)
とヴィヴィは心の中で付け足し、クリスを見てにやりとした。
クリスも苦笑して返してくる。
「お二人のその笑みは何でしょうね? 気になりますが次の質問に移りたいと思います。
今年はオリンピック前哨戦として日本国内でも激戦が繰り広げられていますが、お二人はそんな中で見事十四歳で並み居る先輩スケーターを抑え、シニアの全日本選手権を初制覇されました。
勿論、十五歳に達していないので来年の世界選手権へは出場資格がありませんが、再来年の二月に行われる平昌(ぴょんちゃん)オリンピックへは出場資格を満たします。
ずばり、本音をお聞かせください! お二人はオリンピックを目指していらっしゃいますか?」
(ああ、また来たか――)
各局で必ず聞かれる質問に、ヴィヴィは心の中でげんなりする。
きっと隣でいい子にしているクリスの心中も同様であろう。
クリスは特に、勝ち負けにこだわらない性分なのだ。
もちろん試合で優勝すればそれはそれで喜ぶだろうが、それよりもいかに自分が以前より成長しているか、進化できたか――そこを純粋に突き詰めている。
勿論それは、クリスが誰よりもスケートを愛しているからに他ならない。
だから再来年のオリンピックと言われても、クリスはピンと来ないらしい。
そして、ヴィヴィはもっとピンと来ない。
なにせ今は「自信を喪失した自分自身を見つめなおすために、スケートと真剣に向き合っている状態」なのだ。
そりゃあ、無知で無邪気だった頃の自分は「ヴィヴィはママが取れなかった金メダル、取ったげる(酷)!」と怖いもの知らずで豪語していたが――。
「僕は正直なところ、まだ何も考えていません。多分、妹もそうじゃないかな――ヴィヴィ?」
正直に答えたクリスがヴィヴィに話を振る。
「私も、今はそれどころじゃないというか――目の前のことを熟すことで手が一杯です」
オリンピックのことを「それどころ」と言ってしまった後、しまったと思ったが、まあ本音だしね……とヴィヴィは言い訳せずに口を噤んだ。