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第65章 　 　　 　　

　全日本選手権の２週間前と１週間前。

　７月から密着取材に来ていた毎日放送の『情熱大陸』が放送された。

　２週間前のクリスの回を見たヴィヴィの感想は「へ～、こんなことしてたんだ」だった。

　クリスとはほとんど行動を共にしているが、同じバレエ教室に通っていても、クリスはモダンで、ヴィヴィはクラシックのレッスンを受けていたりで、知らない部分もあるのだ。

　特に、ＦＰの『牧神の午後』へのこだわりが、ディレクターとの日々のやり取りの中から感じられて、興味深かった。

（でも結局、クリスが『牧神の午後』に決めた理由は、よく分からなかったけど……）

　そして「なんかクリエイティブで、格好いいなあ」という印象の、クリスの放送回から一週間後のヴィヴィの放送回は、格好悪かった。

　内容はシーズン前半、不調だった３回転アクセルの映像分析の内容や、クリスの勉強スケジュールに付いて行くのに「ひ～ひ～」言っている映像や、バレエレッスンで『オーロラ姫のヴァリアシオン』を踊るヴィヴィが先生に駄目出しされまくっている映像やらと、格好いいところなど皆無だった。

「ヴィヴィ、アクセルこけまくりだし……。バレエは駄目出しされまくりだし……。ＴＨＥ　ＩＣＥのビリケン様の絵は酷評だし……。真緒ちゃんとのツーショットは嬉しかったけど……」

　自分の回を見た感想をそう述べて、頬を膨らませたヴィヴィだったが、家族には受けていた。

「や～、やっぱりヴィヴィは面白いな！　マオマオ教って！」とダッド。

「絵、下手にもほどがあるでしょ？　後、真緒ちゃんと話してる時、いっつも鼻の下、伸びてるし……」とマム。

「ヴィヴィ、『オーロラ姫のヴァリアシオン』……めちゃくちゃ可愛い……」とクリス。

　そして家族の後ろに控えていた朝比奈は、「お嬢様、ご立派です」と、ハンカチで涙を押さえていた。

「………………」

（絶対にお兄ちゃんには見られたくないわ……。日本にいなくて良かった～）

　そう胸を撫で下ろしたヴィヴィだったが、後日、

「え？　勿論、観たよ？　面白かった」

とテレビ電話の向こうでそう言って、ゲラゲラ笑う匠海を見て、

「誰がお兄ちゃんに、動画送ったんじゃ～っ！？」

とヴィヴィはキレたのだった。