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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第65章
12月22日。全日本選手権、2日目。
前日、男子シングルのSPで1位に着いたクリスが、この後に自分もFPがあるにも関わらず、リンクサイドに付いてくれる中、ヴィヴィは女子シングルのSPに臨んでいた。
第4グループの2番滑走を抽選で引いたヴィヴィは、来年の世界選手権と四大陸選手権の選考を兼ねている国内最大の大会とはいえ、そんなにプレッシャーもなく、緊張もさほどしていなかった。
(ま……。それでも絶対に、絶対にっ、世界選手権の出場権は獲得するんだけどねっ!!!)
ヴィヴィはいつになく気合を入れて、この大会に臨んでいた。
第4グループの1番滑走者がリンクで演技をする中、ヴィヴィは据わった眼で虚空を睨み付け、両手でべちんと音を立てて頬を叩き、気合を入れる。
「うっし……っ!!」
両腕をぶんぶん振り回してストレッチをするヴィヴィを、ジュリアンが後ろからごつんと拳骨を落として落ち着かせる。
「あんたね……。気合い入れすぎて空回り、だけはやめてよ……?」
「……すみません……」
一応そう謝ったヴィヴィだったが、その3秒後にはまた、
(やったりますよ~っ! 今回のヴィヴィ様は、いつもと気合の入り方が違いますからね~っ!!)
と心の中で拳を握りしめる。
「だめだこりゃ……」
そう言ってヴィヴィの後ろで項垂れたジュリアンに、
「緊張しまくるよりは、闘志が漲ってて、いいんじゃない……? 特にSPのテーマは『怒り』だし……」
とクリスがフォローを入れていた。
そんなやり取りも耳に入らないヴィヴィは、軽く膝を屈伸すると、目の前のリンクへの入り口が開かれると、まるでゲートから出走する競走馬の如く、飛び出して行った。
外したエッジケースをぽいぽいとクリスに放ると、リンクを一周して体を温める。
日本代表ジャージを脱ぐとそれもクリスにぽいと放り、アクセルの入りと、ステップからのフリップの確認をしてコーチの元へと戻る。
「ヴィヴィ、落ち着いてね……」
クリスのその言葉に、ヴィヴィはぶんと音を立て、頭を振って大きく頷く。