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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第65章        

「ヴィヴィ……SMILE……」

 ジュリアンのいつもの決め台詞に、ヴィヴィはにかっと大きく笑って見せる。

「だ、だめだわ……。今日は何言っても駄目だわ……」

 娘の『猫バスの様な笑い顔』に頭を抱えたジュリアンを無視し、自分の名前がコールされる中、ヴィヴィは大きな声援に応える様に両手を挙げてリンクへと出ていく。

「…………ふむ」

(ま、ちょっと、落ち着こう……。お兄ちゃん、ヴィヴィ、頑張ります――っ!)

 ヴィヴィは心の中でそう唱えながら、瞼を閉じ、衣装の下に隠している幸運のお守りに指先で触れる。

 時間を使ってリンク中央に立ったヴィヴィは、優雅にポーズを決める。

 ヴィヴィのSP『山の魔王の宮殿にて』が静かなリンクに流れ始める。

 ホルンの静かなロングトーンの後、ファゴットとコントラバスの不気味さを煽る主題の提示。

 両手を上に掲げ頭上を仰ぎ見ていた顔を下し、辺りを警戒するように右、前、左と険しい顔で睨みつける。

 最初からスピードに乗り滑り始め、俯いた状態で大きく上げた両腕は、どこか洞穴から這い出るように力強く振り下ろされ、グレーの衣装を纏ったヴィヴィの上体が引き上げられる。

 トップスピードに乗った助走からの、3回転アクセル。

(うっしゃ……っ!)

 ヴィヴィは見事着氷し、心の中で乙女らしくない声を上げる。 

 厳しい顔で鋭く右腕を胸に引き寄せたかと思えば、ふっと微笑むように全身を弛緩させ、華奢な肢体がしな垂れる。

 3回転ルッツ+3回転トウループを降り、その勢いを殺さずレイバックスピンへ。

 そして、フライングチェンジフットスピン。

(今日のヴィヴィは、いつもより多めに回っておりますっ)

 心の中でそんな下らないことを呟きながらも、確実に回転数とチェンジエッジ、ポジション移動は熟していく。

 指先まで緊張を漲らせた両手を、腰前から頭上へと引き上げながら、まるで咆哮するように大きく口を開け、ジャッジに内なる怒りをアピールする。

 しかし、頭の中では「がお~~っ!!」と獣の如く、吠えているが――。

 ステップから、右手を上げての3回転フリップを下りると、流れに乗ったまま、その右手をぐっと己の左首を掻き毟るように引き寄せる。

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