この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第65章
「お帰りなさいませ、匠海様」
家令のその言葉に、皆が続く。
重厚な扉から現れた匠海に、ヴィヴィはギュッと自分の両手を握りしめた。
(お兄ちゃんっ 半月ぶり……。やっと、会えた……っ!)
そう幸せを噛み締めるヴィヴィの視線の先、漆黒のコートに身を包んだ凛々しい匠海は、皆を見渡し微笑んだ。
「只今帰りました……出迎えありがとう、皆」
よく通るその声に痺れながら、ヴィヴィはうっとりと、久しぶりに目にする生の匠海の姿に酔いしれた。
(五十嵐が、とても嬉しそうだな……)
ヴィヴィはそう思いながら、ぼうと匠海の執事の五十嵐を見ていた。
彼からしたら主の匠海と再会するのは、5ヶ月ぶりなのだ。
いつも落ち着いて感情を表さない五十嵐が、今日は時折笑みを零しながらディナーの給仕をしている。
(分かるよ、ヴィヴィ。とっても分かるよ、五十嵐の気持ち……っ!!)
ヴィヴィは心の中で勝手に五十嵐に賛同しながら、ワイングラスに注がれたミネラルウォーターに口をつける。
(ふわぁ……お兄ちゃんって、何でこんなに格好いいんだろう……?)
瞳の端にいる匠海は、グレーのジャケットの下、シャツとアーガイル柄のベストを纏っただけの普通の恰好なのに、もうなんだか、醸し出す雰囲気が『上質な男』なのだ。
ヴィヴィの鼓動は、玄関をくぐる匠海の姿を目にしてから、ずっと鳴り止むことがなかった。
(まじまじ見つめたら、お兄ちゃんから目が離せなくなっちゃうから、ちらちら見よう……うんっ。……ちらち――らっ!?)
グラスに唇を付けたまま、ちらりと匠海のほうを盗み見したヴィヴィだったが、ちょうど兄と視線がぶつかり、
「――っ!? げほげほっ!!」
見るも無残、喉を通過しようとしていた水が気管に入り、ヴィヴィは激しくむせてしまった。
「なにやってんの、ヴィヴィ……?」
斜め向かいの母ジュリアンが、呆れたようにヴィヴィに突っ込んでくる。
「なにって、ごほごほっ!」
言い訳しようとしてまたむせたヴィヴィに、朝比奈がお手拭を手渡し、その華奢な背を撫でてくれる。
(く、くるしい……って言うか、お兄ちゃんも、呆れた顔して……。は、恥ずかし過ぎる……っ)
息を整えたヴィヴィは、朝比奈に礼を言うと、もう一度水で咽喉を潤した。