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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第65章        

「本当に、甘えんぼだな。ヴィクトリアは……」

「むぅ……お兄ちゃん、も……だもん」

 妹のその不服そうな答えに、匠海が突っ込む。

「は? 俺のどこが?」

 頭上から降ってくるその匠海の言葉に、ヴィヴィは心の中で「えぇ~……」と脱力した声を上げる。

(お兄ちゃんってば、じ、自覚ないんだ……。物凄く『甘えんぼさん』なのに……。でも、何されるか分からないから、これ以上は言わないほうが、身のため……)

 少し匠海の経験値が上がったヴィヴィは、それ以上突っ込むのはやめにしておいた。

 そして、こんな何でもないやり取りを、匠海を直に感じながら出来る今の状況に、幸せを感じるヴィヴィの頬は緩みまくっていた。

「お帰りなさい、お兄ちゃん」

 心を籠めて、ヴィヴィが口にしたその言葉に、

「ん。ただいま」

と返してくれた匠海の声音は、ヴィヴィの気のせいかもしれないが、とてもリラックスした嬉しそうなそれだった。

(うふふ~。幸せ……)

 そう心の底から感じながら瞼を閉じようとしたヴィヴィを、抱擁を緩めた匠海が覗き込んでくる。

「今日着ていたワンピース、可愛かったな?」

「ホント……? 嬉しい~っ!」

(お世辞でも~っ!)

 自分で選んだワンピースをちゃんと見てくれていた匠海に、ヴィヴィはにっこりと兄の腕の中で笑って見せる。

「ああ……。玄関でお前を見た瞬間――」

「…………?」

 そこで言葉を区切った匠海を、ヴィヴィは不思議そうに仰ぎ見る。

「そのまま担いで上がって寝室に閉じ込めて、めちゃくちゃに犯したくなった位、似合ってたよ」

「――っ え、えっち……っ」

(お、お世辞じゃなかった……っ)

 頬を薔薇色に染めたヴィヴィに小さく笑った匠海は、そのおでこに唇を寄せたまま口を開く。

「ごめん。今日は唇へのキス、無しな……」

「え……、どうして?」

「今の俺、半端なく酒臭いから。ヴィクトリアに嫌われたくないし……」

 その可愛らしい理由に、ヴィヴィは灰色の瞳をぱちくりとし、やがて笑った。

「あはは! ヴィヴィ、そんなことで嫌いになんてならないよ?」

「でも、俺が、嫌」

 そう言って譲らない匠海に、ヴィヴィが苦笑して、その瞳を覗き込む。

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