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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第12章
「あ、本当だ。えっと、Happy X’mas」
ヴィヴィは匠海を直視できず、少し上目使いで見てクリスマスの挨拶を返した。
(まさか、クリスマスをお兄ちゃんと一緒に過ごせるなんて、思いもしなかった……)
その事を間違いなく幸福と感じている自分に戸惑う自分がいながらも、一方で一瞬でも長く匠海と時を共有していたいという自分もいた。
少し前のヴィヴィだったら、「自分はおかしい」と直ぐに自分を責めて殻に閉じこもっていただろう。
しかし今シーズンFSを滑るたび、醜い欲望を持っている自分も、迷い戸惑い右往左往している自分も「これも全部、自分なんだ」と少しずつ冷静に自分と向き合えるようになってきていた。
(だから、今はただ、楽しもう――お兄ちゃんと一緒の時間を……)
「ヴィヴィ、プレゼントは何がいい?」
「え……? 何?」
突然振られた質問に、ヴィヴィは分からずに匠海に問い返す。
「ほら、今日X’masだろう。今年も二人は試合で頑張って楽しむ時間がなかったから、心優しい俺がプレゼントを用意してやろうと思って。クリスには昨日、メールしたんだけど――」
心優しい俺――と自分で言ってのける匠海に、ヴィヴィは眉尻を下げて笑う。
顔が綻ぶと、自然に気持ちも綻ぶ。
若干身構えていたヴィヴィだったが、肩の力が少しだけ抜けた。
「クリスは何がほしいって?」
「睡眠時間」
即答した匠海に、ヴィヴィは
(いや、それ、プレゼントできないから……)
と心の中で突っ込む。
「で、ヴィヴィは――? クリスは男だし、あげたら喜びそうなものが大体わかるけれど、女の子は難しいからな~〜」
確かに自分も兄達にプレゼントを選ぶとしたら、きっと何が欲しいか想像できなくて迷いまくるだろう。
ここは自分の欲しいものを素直に言って、匠海の手間を省かせてあげたいと思う。けれど――、
「欲しいもの……そうだな。今は何もない、かな……?」
ヴィヴィは頑張って考えるのだが、頭の中には何も具体的な物が思い浮かばなかった。
「え、なにも? それはまた、無欲だな……」
ヴィヴィがあれもこれも欲しいと言い出すと思っていた様子の匠海は、意外そうにヴィヴィを見返す。
「うん……せっかく聞いてくれたのに、ごめんね……思いつかないや。今年はスケートも順調だし――」