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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第12章
「だし――?」
匠海が妹の言葉尻を拾って聞いて来るが、ヴィヴィは小さく微笑むと目を伏せた。
(一番欲しいものは、願っても手に入らないから。それが手に入らないのであれば、いっそ何もいらない――)
「ふうん……じゃあ、オリンピックの金メダルとかは?」
「え~……。お兄ちゃんまで、そんなこと言わないで~」
今日散々、根掘り葉掘り他人から聞かれた事を、家でも聞かれるとは思わなかった。
まあ匠海は忙しいから、妹が出ているニュースや情報番組を見ている暇はなかっただろうし、同じことを聞いてしまってもしょうがないのだが。
「そんなこと? 普通、目指さない? オリンピックって」
「いや、だって……ヴィヴィ、来季にシニアに上がる準備をしている段階だし……」
困った様にバスローブの裾をいじりながら、ヴィヴィが眉をハの字にする。
「っていうか、そのシニアの全日本選手権で優勝しちゃったのは、どこの誰?」
「………………」
(まぐれだもん、たぶん……。だってシニアには凄い選手がいっぱいいるから。来期はそんなに簡単に優勝させてはもらえないよ……)
やっとスケートと正面から向き合える状態になったばかりの今ヴィヴィには、オリンピックは重荷にしか感じられないのだ。
(でも……)
「ヴィヴィがオリンピックに出たら……お兄ちゃん、嬉しい?」
単純に匠海がどう思っているのか、ヴィヴィは知りたくなった。
「そりゃあ、もちろん!」
(そうなんだ……お兄ちゃん、ヴィヴィがオリンピックに出たら、喜んでくれるんだ――)
「じゃあ、出る」
気持ちは一瞬で固まった。
あんなに嫌がっていたのが嘘みたいに、ヴィヴィは即決した。
匠海がオリンピックで自分を見てみたいと思っているのだ。
それを叶えるという事以上の高いモチベーションが、今のヴィヴィにあるだろうか。
「じゃあって――単純だな!」
ヴィヴィの即答に、匠海が声をあげて笑う。
大き目の口元に少し笑い皺が出るのが大人っぽい。
自分は兄にはいつもこんな顔をしていて欲しいのだ。
「単純だもん」
匠海に喜んでもらえる方法を見つけて、ヴィヴィは太ももに乗せた掌を見つめて小さくはにかんだ。
「っていうか、それじゃあ俺へのプレゼントじゃないか。俺はヴィヴィが欲しいものを聞きに来たのに」