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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第66章
「匠海が? 嫌がる訳ないじゃない。クリスが大学進学する頃には、匠海も本社勤務になってるだろうし。むしろ喜んでべったり張り付いて、沢山教えてくれるわよ。あの子、あんた達の事、溺愛してるしね~」
そのジュリアンの言葉に、妹とよく似ているが無表情のクリスの顔に、少しだけ困惑の色が浮かんだのを、ヴィヴィは見逃さなかった。
「……うん……」
そう頷いたクリスは、目の前に饗された蓮根のしんじょの椀を手に取り、食べ始めた。
「………………?」
(クリス……? どうしたんだろう?)
ヴィヴィはクリスから視線を外し、自分の前に置かれたお椀の蓋を開ける。
柚子の香りに食欲が刺激され、箸を持つ。
(ヴィヴィが過ちを犯す前、お兄ちゃんはヴィヴィ達を同様に可愛がってくれてて……。今はクリスの事だけを溺愛してるのに……。なんかあったのかな?)
頭の中でそんな疑問を覚えていると、クリスがちらりとこちらを振り向いた。
「ヴィヴィ……。食後も勉強だから、ちゃんと食べて、元気付けて……」
そう現実を突き付けられ、ヴィヴィの頭から先ほどの疑問が吹き飛ぶ。
「クリス様~っ! せ、せめて、寝る前にでも楽器、触りたいんですけどっ」
ヴィヴィがそう半泣きの声を上げると、
「分かってる……。10:30まで勉強して、11:30まで楽器の練習。12:00には入浴を済ませて、就寝……。それでいいね……?」
「は、はいぃ……」
(そして、12:30位から、ヴィヴィはお兄ちゃんに抱いてもらうんだけどね……)
ヴィヴィはがっくりとうな垂れながら、自分の睡眠時間を計算し、
(け、計算するんじゃなかった……)
と心の中で頭を抱えたのだった。
深夜0時。
入浴を終えたヴィヴィが、リビングでぼうとしながらミネラルウォーターを飲んでいると、匠海との部屋との境界線から、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
ヴィヴィはコップの中身を飲み干すと、白いバスローブ姿のまま、扉へと近づき開け放つ。
「お帰りなさい、お兄ちゃん」
そこに立っていた黒のスーツ姿の匠海見上げ、ヴィヴィは幸せそうな笑みを浮かべた。
「ただいま。ヴィクトリア」
扉の縁に凭れ掛かり、にっと笑って自分を見下ろしてくる匠海に、ヴィヴィの鼓動が高鳴る。