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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第12章
匠海が小さく首を傾けてヴィヴィを見つめる。
切れ長の灰色の瞳の中に、自分のシルエットが映り込んでいるのがよく分かった。
(お兄ちゃんが、今――ヴィヴィだけを見てる――)
「……あった。欲しいもの……っていうか、願い事――」
やっと要望を口にした妹に匠海が尋ねる。
「お。何?」
「好きな人に、自分を『見て』ほしい」
身を乗り出して聞いてきた匠海に、ヴィヴィはまっすぐに視線を合わせて答えた。
「……イギリスで言ってた人?」
「うん」
小さく頷いたヴィヴィだったが、匠海には妹の意図する事がよく分からなかったようだ。
「見てほしいって、振り向いてほしいってこと?」
「ううん。『見て』てほしい……ただそれだけで、いい――」
(それ以上を望んでしまったら、ヴィヴィはきっと――自分を保てなくなるから)
余りにも無欲なことを言う妹に、匠海は少し心配そうな顔をした。
「う~ん。よく分からないけれど、ヴィヴィから告白したら? 兄の俺が言うのもなんだけど、お前は可愛いし、最近は大人っぽくなってきて綺麗にもなったし」
「……綺麗? ヴィヴィが……?」
匠海の予想外な評価に、ヴィヴィは大きな瞳を真ん丸にして驚いた。
兄はヴィヴィをからかった訳ではなかったらしい。
ちゃんと頷いて返してくれる。
「うん。ほとんどの男共はヴィヴィから告白されたら、有頂天になると思うよ?」
「……それは、ないと思う」
自信満々にそう言う匠海の言葉に、ヴィヴィは一瞬詰まり、そしてぼそりと溢した。
「どうして?」
「……分かるから」
ヴィヴィの答えに納得がいってない様子の匠海が、両腕を上に大きく伸ばして「う~ん」と唸る。
「そうかなあ~? でも可能性を自分で狭めないほうがいいんじゃないか? 告白してみて初めて相手も自分を意識して、そこから好きになってくれることもあるだろうし」
匠海のアドバイスは尤もだとヴィヴィは思う。
思うけれども――それは『通常』の恋愛の場合だ。
「………………」
(ヴィヴィは、相手が苦しむと分かっていて、自分の気持ちだけを押し付けるなんてしたくない……)
沈みかけたヴィヴィの心に、ふと疑問が浮かんだ。
「そういえば、お兄ちゃんは?」
「え?」
「お兄ちゃんの『欲しいもの』って、なに――?」