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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第67章         

「え? どうして?」

 ヴィヴィが不思議そうに隣のクリスを振り返れば、

「ヴィヴィは、興味ないでしょう……? 新車のエンジン見せて貰ったり、乗り比べしたり……」

「ああ、あの8シリーズ・クーペ、良かったよな? 7シリーズ・クーペより8シリーズ・セダンと外観上の差別化がされてて」

 匠海のその指摘に、クリスがヴィヴィから匠海に視線を移す。

「そうだね。BMWの特徴の一つ、キドニー・グリルが横長になって、ノーズの低さとワイドさが強調されて、格好良くなったよね……」

「クリスなら、8速ATか?」

「ううん。やっぱり6速MTだよ……。確かに8速MTのほうが、加速・燃費ともに優れてるけど、BMWではあくまでも8速ATのほうがオプション扱いでしょ……?」

「だよな。日本でもクーペなら3ペダルMTで乗りたいオーナーの方が、案外多いかもな」

 そこで言葉を区切った匠海は、再度クリスに視線を寄越す。

「試乗車どうだった? 俺のより滑らかで、ちょっとイラっとしたんだけど」

 そう言いながらばさりと音を立てて畳まれていたナプキンを開いた匠海に、クリスが声だけで苦笑する。

「ふふ、しょうがないよ、改良されてるんだから……。でもさすが、シルキー6……。直列6気筒エンジンは、憧れだよ……」

「ああ、あの高回転までの吹き上がりに独特の加速感、俊敏なエンジンレスポンスに、重厚なエンジンサウンド。これぞBMWを持つ喜び――ってな」

 そう言って五十嵐が注いだシャンパンをくいっと飲み干した匠海に、ヴィヴィは目が点だった。

「………………」

(何語……ですか……?)

 二人の会話に全く入っていけず、ヴィヴィはしゅんと視線を落としてナプキンを広げる。

(ヴィヴィも車に詳しくなればいいかな……。そしたら仲間に入れてもらえるのかな……)

 そう全く間違った方向へ突き進もうとしていたヴィヴィを、隣のクリスが覗き込んでくる。

「ヴィヴィ……ごめんね? 一人だけ残されて、寂しかったんだね……?」

「ううん……大丈夫……」

(クリス……優しいなあ……)

 そう言って微笑んだヴィヴィに、匠海が苦笑する。

「クリス、あんまりヴィヴィを甘やかすなよ? 図に乗るぞ?」

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