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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第68章
12月30日。夜。
スパから帰宅し、食事を終えたヴィヴィは、『教育兄』に引きずられて私室へ戻ると、3時間程一緒に勉強した。
ようやく本日のスケジュールの全てから解放され、楽器の練習をしに防音室へと向かう最中、クリスが隣を歩くヴィヴィの肩を抱き寄せてきた。
「ヴィヴィ……、今日、凄くいい香り、する……」
「あ……、お兄ちゃんに、スパに連れて行って貰ったの」
ヴィヴィはそう言うと、背の高いクリスを見上げて微笑む。
「スパ……? 高校生、が……?」
「あ、やっぱり、ちょっと贅沢だよね……?」
「ん……まあ、いいんじゃない? ヴィヴィ、普通の高校生と違うし……」
「え?」
そう聞き返したヴィヴィに、クリスが防音室の扉を開いてくれる。
「自分の収入、あるでしょう……? 贅沢ぐらいしても、いいんじゃない……?」
「ああ……」
自分の収入、という言葉に、ヴィヴィは曖昧な返事を返す。
アマチュアのフィギュアスケーターというものは、物凄くお金が掛かる。
コーチに払うお金はもちろん、振付や音楽、リンク代、移動費、フィジカルトレーナー、マッサージ師、治療費等々。
スケート靴は1足30万円で年間150万円程掛かり、衣装はSP、FP、エキシビで合計150万円程。
双子はこれに加え、バレエ等、各シーズンでダンスを習いに行ったりするので、そのレッスン料も掛かる。
一方、収入はといえば、アイスショーの出演料、各媒体への出演料や肖像権使用料、そして試合での優勝賞金が主だが、金メダルを取れたとした場合――、(1ドル100円換算)
主要な大会だと、
世界選手権 450万円
各GPシリーズ 180万円 (年2試合)
GPファイナル 250万円
4年に1回のオリンピックでも、JOCから報奨金として
300万円出るだけ。
国内試合の頂点――全日本選手権に至っては、賞金は出ず、選手はエントリー料を払う。
ただし、上記も『金メダルが取れたと仮定した場合』だ――。
双子はこれに加えてCM契約料やスポンサーからの援助があるので、今では持ち出しは無くなったが、オリンピックで結果を残すまでは、とんでもない金額を両親に負担して貰っていた。
そして全ての収入において、スケ連に数割を収めている。