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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第68章
「……あ――っ!」
突然小さく叫んだヴィヴィに、トランペットの基礎練習を始めていたクリスが、「何?」と振り向く。
「ヴィヴィ……スパのお金、払ってない……」
「兄さんが出して、くれたんでしょ……?」
何故かこの世の終わりのような顔をするヴィヴィに、クリスが確認してくる。
「う、うん……。でも、かなりの金額だったんだけど……」
ヴィヴィはスパでトリートメントの説明を受けている時、各施術の横に書かれていた金額を見ていた。
しかもスパスイートと言われる部屋の、最上級の部屋を半日も貸切りにしていたのだ。
「……OMG……」
頭を抱えたヴィヴィに、クリスが「大丈夫、でしょう……?」とフォローしてくる。
「兄さんには、結構な所得があるんだよ……。僕も詳しくは、知らないけれど、会社関連の株、数割を所持しているから、それに付随する配当収入でしょ……? 大学時代から働いているから、その給料……、他にも投資している株、信託、所有している不動産からの収入、もあるし……」
「後は、知らないけれど……」と続けたクリスに、ヴィヴィはあんぐりと口を開いた。
「へえ……お兄ちゃんって、お金持ちなんだ……」
そのヴィヴィの呟きに、クリスは「何を今更」という表情をする。
「ここの跡取りだし、ね……」
「……はあ……」
(し、知らなかった……。あ、でも……確かにBMW買ったり、欧州の試合でも毎回スイートに泊まったりしてるし……)
思い返せば、匠海は結構お金を使っている。
そう言うヴィヴィだって、本人が気付いていないだけで、毎月スケート以外でも、かなりのお金が掛かっているのだが。
「でも僕達だって、あるでしょう……?」
ピアノの椅子に座ったまま、考え込んでいるヴィヴィに、クリスが尋ねてくる。
「え? 何が?」
「え……何って……。会社関連の株、数割持ってるし……、他社の株、信託、所有する不動産の、収入だって……」
「クリス、そんなの持ってるのっ!? すご~いっ!!」
(へえ……クリスってば高校生なのに、株とか不動産とか持ってるんだ。ふへえ~)
ヴィヴィは目を真ん丸にしてクリスを見つめたが、その双子の兄は、自分とそっくりな顔を強張らせていた。