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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第68章           

「………………」

「え……? どうしたの?」

(ヴィヴィ、なんか変なこと言った……?)

 こてと首を傾げたヴィヴィに、クリスが盛大な溜め息を付いた。

「ヴィヴィって、本当に、心底、世間知らずだったんだね……。僕、それ、計算づくかと思ってた……」

「へ……?」

(計算づくの、世間知らず……?)

 いつも自分にベタ甘のクリスに、何だか物凄く酷い事を言われた気がして、ヴィヴィは目が点になる。

「あのねえ……、ヴィヴィだって、僕と同じ収入、あるんだよ……? 朝比奈が毎月、収支報告、してくれるでしょう……?」

 そのクリスの言葉に、ヴィヴィは「え~~?」と呟きながら胸の前で腕を組む。

「収支報告……? ああ、あれ、ヴィヴィ真面目に聞いたことない……。通帳残高も、ちゃんと見たことないし……」

「お、お嬢様……」

 いつの間にか防音室に来ていた朝比奈がそう呟き、脱力したようにソファーに手を付いてうな垂れていた。

「あ……ごめん……」

(しまった……。朝比奈いるの、気づかなかった……)

 腕組みを解いて小さく舌を出したヴィヴィを、寄ってきたクリスがぎゅうとその胸に抱きしめてくる。

「ヴィヴィ、大好きだよ……愛してるよ……。

 例え、君に経済観念がなくても、究極の世間知らずでも、

 信じられないほどの天然でも……。

 僕はヴィヴィの事、本当に、心の底から、愛しているよ……っ」

「………………」

(……絶対、愛してないでしょ、それ……)

 ヴィヴィはひしと抱きしめてくるクリスの胸の中で、据わった眼をしながらそう悟った。

「何やってんの、お前達……」

 クリスの胸の中で、防音室の扉が開く音とその匠海の声を聞き、ヴィヴィはぴくりと躰を震わせた。

 抱擁を解いたクリスが、

「うん……。ヴィヴィの、経済観念の無さと、世間知らず加減と、天然ぶりが判明したけど、僕は愛してる、と兄妹の情を再確認してた……」

と事細かく説明し、うな垂れていた朝比奈がそれに深く頷いて、同意した。

「ああ、今頃気付いたのか……。まあ、早めに知ることが出来て、良かったな」

 そう酷い返事を返した匠海に、普段あまり感情を出さないクリスと、執事の鏡であるはずの朝比奈が、苦笑した。

「………………」

(ああ……もう、何とでも言うがいいさ……)

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