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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第68章           

 


   『震えて脅えた女を抱く趣味はない』




 復讐を口にした匠海が自分を抱いた時、震える躰を抱きしめながら口にしてくれた言葉が、ヴィヴィの脳裏によぎる。




   『何度もお兄ちゃんと一つになってるのに、何度だって欲しくなるの……。

    好きな人を受け入れて、包み込むことが出来るって、

    これ以上嬉しい事、無いから……』




 数日前の自分の心の声が蘇る。

 なんて無邪気で、なんて無知だったんだろう。

 きっと心の奥底では、兄の心が自分に傾きつつあると、驕っていたからそんな事を思えたんだ。




   『お兄ちゃん……溺れて……。
 
    ヴィヴィの躰に溺れて。

    そして一生……、ヴィヴィのこと、手放さないで……』




 そう――。

 そう望んだのは、紛れも無く自分。

 そしてそれは現実になったではないか。

 確実に、今の兄は自分の躰に溺れている。

 これで良かったではないか。

 例えそこに、兄の心が一片も無く、

 心の無い『人形』のように扱われたとしても――。




(そうか……ヴィヴィ、お兄ちゃんの『人形』なんだ……。

 お兄ちゃんが抱きたいときに抱いて、お兄ちゃんが欲しい様に啼いて善がって、

 お兄ちゃんを気持ちよくさせる為だけに存在する、『人形』――)




「………………」

 長い睫毛に縁どられたヴィヴィの灰色の瞳が、昏く濁り始める。




(そうか……、ならば、ヴィヴィがやるべきことは、ただ一つ。



 『役』になりきるのは、得意――)




 震えていた華奢な躰が、ぴたりと静かになる。

 ゆっくりと下された瞼から再度現れたヴィヴィの瞳から、完全に光が消えた。

 妹の蜜壺を捏ね回していた匠海が、ねっとりと己の陰茎を擦り付けながら囁いてくる。

「ヴィクトリア、今日はえらく静かだな……。ほら、いつもみたいに甘い声、出してごらん?」

「……はっ ……ふぅっ ……ぅっ」

 呼気だけを吐き続けるヴィヴィの、お尻だけ上げ上半身を突っ伏した躰に、匠海がその大きな掌を這わせ始めた。

(お兄ちゃんが、啼けって、言ってる……)

 ヴィヴィはゆっくりと瞼を閉じると、光の遮断された世界の中、兄の昂ぶりの感触だけを追い求め始めた。

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