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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第68章           

(や……っ やだ……、気を、失いたくない、

 眠りたく、ない……やだ……や――)

 ヴィヴィは懸命にその睡魔の様なものに抗ったが、やがてその瞼は完全に下り、そしてその意識は暗闇の中へと堕ちて行った。







 薄暗い寝室に、くしゅっと小さな音が下りる。

 そのくしゃみと共に覚醒したヴィヴィは、ぶるりと躰を震わせて覚醒した。

(……ぅ、ん……、寒、い……)

 師走とはいえ、完璧な空調システムの整った篠宮邸は、常に適温に保たれている。

 それでも若干の寒さを覚えたヴィヴィは、ゆっくりと躰を起こし、その理由を悟った。

 黒いシーツにうつ伏せで寝ていたらしい自分は、何一つ身に纏っていなかった。

 否――、唯一、履いたままだったショーツが、二人の体液で汚れたまま肌に張り付いていたが。

「………………」

 ヴィヴィの瞳が昏く陰りながら視線を彷徨わせると、自分のすぐ隣に躰を横たえ、こちらも全裸のままの匠海が眠っていた。

 その姿が視界に入るなり、ぎくりと躰を強張らせたヴィヴィだったが、兄が寝ている事に気付くと、やがてほっと息を吐いてその匠海を見下ろした。

(……風邪……ひいちゃうよ、お兄ちゃん……)

 ヴィヴィはベッドの足元に据え置かれた フットベンチの上に落ちていた羽根布団を引き上げると、匠海の躰にかけた。

「……おやすみなさい、お兄ちゃん……」

 ヴィヴィはそう小さく呟くと、匠海の頬に口付けを落とそうと身を屈める。

 さらりと音を立てて肩から落ちた長い髪が、匠海に触れないように手で押さえ、軽く唇を触れて離す。

 先程はあまり見る事が出来なかった兄の顔を、ヴィヴィはその場でしばらく見下ろしていた。

 やがて匠海に背を向けたヴィヴィが、ベッドから降りようとスプリングに付いた手が、ぐっと掴まれた。

「え……?」

 驚いて後ろを振り返ったヴィヴィの視線の先、切れ長の瞳をぱっちりと開いた匠海が、自分の腕を握ったまま見上げていた。

 ふわりと微笑んだヴィヴィが、薄い唇を開く。

「起こし、ちゃった……? ごめ――」

「なんだ、まだそんな元気があったのか?」

 妹の声を遮って匠海が発した言葉に、ヴィヴィは固まる。

(……え……?)

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