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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第13章              

 一家の長らしく頷いた父だったが次の瞬間、着物の袂から「ジャ~ン!!」と効果音をつけて何かを取り出した。

「はい、可愛い子ちゃん達! お前達が泣いて喜ぶ『お年玉』の時間だよ!」

 隣でおとそをを飲んでいた母ジュリアンも、ニコニコと子供達を見渡している。

「「「………………」」」

 もう思春期を迎えた子供達はそんな両親のテンションに付いていけず、無言を決め込む。

 そんな3人に気づかないのか、父グレコリーは水色のポチ袋を匠海のほうへ掲げる。

「ほら、匠海からだよ」

「え……俺、もう成人してるけど……」

 やんわりとお年玉を拒否した匠海だったが、父が物凄く哀しそうな顔で見つめてきたために、しぶしぶ立ち上がって受け取りに行った。

 双子もしょうがなく、父に付き合ってポチ袋を受け取る。

 受け取った瞬間、ヴィヴィは心の中で金額を把握した。

 この紛れもない大きな硬貨の感触――五百円玉だ。

 ポチ袋を手にヴィヴィと同じ事を悟った兄達を見やる。

 父が嬉しそうに笑う高笑いがダイニングに響き、春の海と妙に相まって不可解な音楽となる。

「………………」

 父は日本と英国とのハーフなので、日本の伝統を大事にしたいらしい。

 それは日本びいきなヴィヴィも一緒だ。しかし――。

(金髪と着物って、ほんと合わない……)

 ヴィヴィは自分の袂をしげしげと見つめる。

 浅葱(あさぎ)色というのか、緑がかった空色の地に大きな牡丹や小槌などが描かれている美しい着物。

 黒髪にはとても映えそうな伝統美も、ヴィヴィの金髪ではくすんで見えているのではと気にかかる。

 視線を上げたヴィヴィは、その瞳に映ったモノを見つめて俯くと、小さくはにかんだ。

(ま、いいか――貴重なお兄ちゃんの羽織袴姿が見られたから……)

 去年、日本の成人式では父に羽織袴を勧められたにも関わらずスーツを着て行った匠海だったが、今日は大人しく着物を身に纏っている。

 彫りが深く日本人離れした顔立ちの匠海だが、東洋の美しさを兼ね備えた凛としたその雰囲気と美しい黒髪に、漆黒の袴がとても映えていて素敵だった。

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