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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第69章
その優しくて繊細な指使いに、ヴィヴィは思わず呟いた。
「……気持ち、いい」
「お前の今の顔、クリームまみれで、かなり間抜けだぞ?」
「………………」
(お兄ちゃんが、塗りたくったんですけど……)
ヴィヴィは唇をつんと尖らせながらも、理解した。
――ああ、今日は『飴』の日、なのだと。
昨日は『鞭』で、今日は『飴』。
じゃあ、明日は――?
「ヴィクトリア、唇、普通にしろ」
尖らせたままだった赤い唇を、指先でつんと突かれたヴィヴィは、匠海の言う通り、むにと引き伸ばした。
匠海が指の腹で、クリームをそこに伸ばしてくる。
何度も柔らかく唇をマッサージされると、何だか変な気分になってくる。
(何やってるんだろう、ヴィヴィ……。今きっと、クリームお化けになってる……)
普通なら思い人にはあまり見せたくないであろう、メイク落としを匠海自身にされ、しかも物凄く上手で気持ち良くて、ヴィヴィはつい「自分は本当に『人形』なのかも……」と錯覚してしまった。
妹がそんなことを考えているとは知らず、匠海はコットンを使ってクリームを全て拭い取ってくれた。
暖かい濡れタオルで顔を拭かれ、前髪を止めていたピンも外し、髪を整えてくれているのが、視界が遮断されていても分かる。
「目……、開けてもいい?」
「ああ」
ヴィヴィはゆっくりと瞼を上げると、洗面台に座ったまま、後ろの大きな鏡を振り返った。
「……凄い……。ありがとう、お兄ちゃん」
自分がよくやってしまう、『マスカラ落とし不足のパンダ目』になることもなく、綺麗に濃いメイクが落ちていた。
お礼を言って前に向き直ったヴィヴィの目の前、匠海が自分の纏っているドレスシャツのボタンを外し始めていた。
「え……、まさか、お兄ちゃんも、入るの……?」
ヴィヴィは仰天して目を真ん丸にする。
「ああ。いいだろう、別に」
「ク、クリスの部屋に、声、聞こえちゃうかも……」
篠宮邸は鉄筋コンクリート造りで、各部屋の壁も床もある程度の防音措置は取られているが、完全防音ではないので、油断できない。