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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第70章
薄暗い寝室の中、唯一の光源である、ベッドサイドのライトに照らされた金色の頭が、ぴくんと震えた。
ヴィヴィの瞼がゆっくりと持ち上がり、その視線の先にある男らしい喉仏に安堵の息を漏らす。
昨夜(正確には今朝)、匠海と一緒に眠りに付いたという記憶は、まやかし等では無かったのだ。
暖かい羽根布団の上に添えられた匠海の腕は、柔らかくヴィヴィを抱き寄せている。
大きな灰色の瞳に幸せそうな光が灯ったのも束の間、徐々にその光は薄れていく。
「………………」
(優しさって、何なんだろう――)
ヴィヴィの頭の中に、ふとその疑問が浮かぶ。
微かに頭を動かして匠海の寝顔を見上げる。
端正なその顔はいつもより幼く見えるが、やはり寝ている時でも崩れたところひとつない。
自分が兄を好きな理由を上げろと言われて、最初に思いつくのは――優しさ。
勿論、他にも好きなところは沢山ある。
兄は完璧に近い人間だ。
物心ついた頃からずっとその背中を追いかけてきた自分は、匠海を心底尊敬し、心酔している。
しかしヴィヴィが過ちを犯し、兄に『復讐』という二文字を言わせてしまった以降は、どうだろう?
今迄通り、優しいと感じることは多々あるが、そればかりではない。
以前は絶対に浴びせ掛けられなかった侮蔑の言葉や、嘲笑、人格の否定、そして気紛れに与えられる見せかけの愛情。
全ては自分の犯した罪のせいだという自覚はある。
幸か不幸か、今まで全く知らなかった兄の色んな顔を目にするようになり、ふと先程の疑問を覚えた。
自分は兄が優しかったから、男として好きになったのだろうか――。
もし兄が優しくなくて、最初から今の様な匠海であったら、
恋をしなかったのだろうか――。
(なんか……一番身近にいて、無条件で甘えられて、無償の愛を与えてくれたのが、たまたまお兄ちゃんだったから、ヴィヴィ、好きになっちゃった……、そんな感じ、なのかな――?)
しかし全く同じ条件を満たす、父親にも、クリスにも、――主従関係にあるとはいえ、常に傍にいてくれる朝比奈にも、自分は同じ気持ちにはならなかった。