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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第70章
(分からない……本当に、分かんない……。
ただヴィヴィ、もう産まれた時からずっと、
お兄ちゃんしか見てなかったから……)
それが理由では駄目だろうか。
それが実の兄である匠海を、男として愛した理由では駄目だろうか。
そもそも、誰に対してその理由を説明する必要がある――?
「………………」
(はぁ……もう、分かんない……。お兄ちゃんの事、愛してるのに……。
どうしてこんな事、考えてしまうのか……)
ヴィヴィの薄い唇から、知らずしらず吐息が漏れる。
その微かな音に、匠海が身じろぎし、やがてその瞼が持ち上げられた。
起き抜けだというのに、その灰色の瞳は真っ直ぐにヴィヴィに焦点を当てていた。
「おはよう、ヴィクトリア……。よく眠れた?」
形の良い唇から発せられたその優しい言葉に、ヴィヴィは瞳を細める。
「うん、ぐっすり! お兄ちゃん……、おはようのチュー、してもいい?」
「駄目」
そうつれない返事を返してくる匠海に、ヴィヴィは唇を尖らす。
「むぅ……どうしてぇ?」
「冗談。おいで」
ふっと微笑んだ匠海はヴィヴィの上に添えていた腕で、その細い躰を抱き寄せた。
ヴィヴィの薄い唇に、匠海のそれが触れ、ちゅっと吸い付いて離れた。
そのまま強く抱きこまれ、躰を密着させられたヴィヴィが一言。
「お兄ちゃん……朝から元気だね……」
「ふ……っ 相手してくれるか?」
「も、無理……」
2020年1月1日。
篠宮邸の防音室は賑やかな音に満ち溢れていた。
薄墨色の羽織と着物を纏った父グレコリーは、ウッドベースを。
渋い小紋を纏った母ジュリアンは、ドラムを。
藍色の羽織と着物を纏ったクリスは、トランペットを。
橡(つるばみ)色という濃灰色の羽織と着物を纏った匠海は、ピアノを。
黒地に朱色を始め、色取り取りの柄が入った振袖を纏ったヴィヴィは、ヴァイオリンを。
そしてもちろん奏でられるのは、JAZZだ。
「SING SING SING――!」
ジュリアンがそう指定して、勝手にドラム・ソロを始める。
「わっ!? ちょっと待ってっ!」
気を抜いていたヴィヴィが、焦ってヴァイオリンを構える。
その長い振袖は、朝比奈によってたすき掛けにされていた。