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第70章 　 　　 　　　　

　一つの主題を奏で終え、リズムを刻み始めた二人に、静かにドラムとベースが重なり合う。

　徐々に盛り上がっていく中、クリスのトランペットが柔らかく参加してくる。

　ベースの格好良いソロを、体でリズムを取りながら耳を傾けていたヴィヴィが、やがてちょろちょろと鍵盤を弾き、悪戯を仕掛ける。

　それに悪乗りしてきたクリスにソロを奪われたグレコリーは、プンスカ怒った様に乱暴に弦を弾くが、すぐに破顔する。

　ロマンチックな一曲を、かなり賑やか目に演奏しきった一家は、一斉に噴き出した。

「全然、王子様待ってる感がない！」

「むしろ、自分から迎えに行ってるわ～！」

「それはそれで、よし……」

　皆口々に言い合いながらも、篠宮家恒例の元旦のＪＡＺＺ演奏に満足していた。

「お兄ちゃん、今度は交代しよう？」

　ヴィヴィのその提案に、匠海は頷いて左右の席を入れ替わった。

「最後はやっぱり、これでしょ？　TAKE　FIVE――！」

　ジュリアンはそう言うと、ドラムで４分の５拍子のリズムを刻み始める。

　その途端、ヴィヴィの気持ちが上がり、着物を纏った体でリズムを取り始める。

　妹のそのノリノリな様子に、隣の匠海が苦笑するが、ヴィヴィはべっと舌を出して鍵盤に指を降ろす。

　細い指先から奏でられる和音のリズムに、ベースのグレコリーも被せてくる。

　匠海とクリスが同じく、あまりにも有名な主旋律を歌い上げれば、ヴィヴィの小さな顔に笑みが零れる。

　ドラム・ソロ、ベース・ソロ、トランペット・ソロを挟み、匠海が色気たっぷりにピアノのソロで聴かせる。

　最後は主題とリズムで渋く締めれば、聴いていた使用人達から拍手が起こった。

「きゃ～っ　楽しいっ！」

　ヴィヴィが弾ける笑顔でそう叫びながら匠海を見詰めると、兄は白い歯を零して笑い返してきた。

「コードばっかりで、つまらなかったんじゃ？」

「全然！　色々アレンジできたし。お兄ちゃん、また連弾しようね？」

　ヴィヴィがそう言って顔を覗き込むと、匠海は「いいよ」と言って頭を撫でてくれた。